2024年4月14日掲載

「一人ひとりに寄り添う、歯科医療を目指して ~65歳以上の患者さんに診療室でできること~」をテーマに

ライオン歯科衛生研究所、予防歯科セミナーを開催

ライオン歯科衛生研究所、予防歯科セミナーを開催
 さる4月14日(日)、ライオン歯科衛生研究所による予防歯科セミナーが「一人ひとりに寄り添う、歯科医療を目指して ~65歳以上の患者さんに診療室でできること~」をテーマにWeb配信にて開催された。

 当日はまず、開催挨拶として濱 逸夫氏(ライオン歯科衛生研究所理事長)が、ライオン歯科衛生研究所が110年もの歴史があるこの予防歯科セミナーの経緯と、時代にあった情報提供を続けるとともに今後は交流の場にもしたいと述べた。その後3講演と、演者らによるパネルディスカッションが行われた。

 講演1は、「地域で歯科ができる口腔・栄養・リハビリテーション」と題して糸田昌隆氏(大歯大保健学部口腔保健学科)が、自身の所属する医科も併設の病院で口腔リハビリテーションチームとして多職種で取り組む高齢者診療を紹介した。オーラルフレイルなどの対応や、栄養摂取のため口腔ケアも必要だが、寿命の延伸にかかわる要素として骨格筋量と筋力の影響が大きいとの論文や調査を紹介した。摂取した栄養を噛むことやリハビリテーションを通じて、筋肉として身につけ、自力で動く力が必要であり、高齢者こそ「機能回復、筋力維持」の必要があることを強調した。

 講演2は、「チェアサイドから ベッドサイドまで~かかりつけ歯科医院の役割~」として細野 純氏(東京都開業)と、深澤佳世氏(歯科衛生士、細野歯科クリニック)より、一般臨床における高齢者へのかかわり方を紹介した。まずは細野氏より高齢者への地域包括ケアシステムにおける歯科医院の役割とオーラルフレイルについて概説し、 自院のある東京都を例に、超高齢化が進む2030年に向けた地域包括ケアシステムの構想を紹介した。地域ごとに異なるものの各種医療や介護分野の支え合いに歯科も含まれ、重要な役割を担うと述べた。

 次に深澤氏より、高齢者もそれぞれで4タイプに分けて演者が行っている対応のコツを紹介した。どのような傾向があるか来院時に観察し、気がついたことは小さなことも必ず言語化し、スタッフと共有すべきと強調した。忘れがちではあるが、演者の体感として、急変時に脳障害の前触れなど重要な予兆を示すこともあると語った。

 講演3は、「高齢者に伝わる予防歯科とは ~『わかる』をめざそう~」と題して、原田悦子氏(筑波大人間系心理学域教授)が講演した。歯科医療者ではないため、患者側の立場で認知心理学の見地から講演を行うと前置きし、コミュニケーションの定義を解説した。対面に限らず、メールなど文字やWebを介した方法もあるが、発信者が受け手に正確に情報を渡し、伝わることがコミュニケーションであると述べた。医療事故の例を挙げ、なぜ伝わらないのか、何が伝わっていないのか?を解明することが原因を知るきっかけになることを解説した。歯科は言葉自体が難しく、直接口腔内が見えないわかりづらさがあるとし、対処として相手に応じて「発話のデザインをよく考える」ことを提案した。高齢者は聴力・視力・認知機能が低下し、複雑な理解が困難となる。これはデザインの欠陥に正直に反応した結果ともいえるとした。対策として、低く大きな声でゆっくり話すようにし、一度に伝えるのは1つにして、患者の理解度を確認しながら進めると円滑になるのではないかとまとめた。

 講演終了後、「65歳以降の患者さんに診療室でできること」と題してパネルディスカッションが行われた。コーディネーターの西沢邦浩氏(日経BP総合研究所客員研究員)が総括を行い、今回のテーマである高齢者診察の「これだけは!」というポイントについて、各講演内容にふれながらディスカッションを行った。患者を考慮したユニバーサルデザインが必要なこと、日常生活も考慮したフォローが重要など、各演者の考えるポイントが話し合われた。続いて、患者からの「処置と関係ない口の健康について相談してよいか?」という質問には、来院時「最近食事はどうですか?」などの声掛けで自然に話しを引き出す例を挙げるなどのコツが話し合われた。異なるフィールドで活躍する各演者が新たな発見をしながら和やかにディスカッションが展開され、最後に西沢氏より締めの言葉として各演者に「明日の朝から行動を促すメソッド」を一言ずつ求め、セミナーを締めくくった。

 なお、本セミナーを振り返るオンデマンド配信(動画配信)が2024年4月19 日(金)以降、配信予定である。

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