歯科衛生士 2018年1月
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 認知症の人の数は、糖尿病、高血圧などの身近な疾患(common disease)に迫るほど増え続けています。今や、誰もがかかわる可能性のある病気だと言えます。 認知症の原因は60以上あると言われますが、もっとも多い原因がアルツハイマー病(約6割)で、次いで脳卒中(約2割)、レビー小体型認知症(約1割)と続きます。このうち、アルツハイマー病とレビー小体型認知症には根治を期待できる治療法がなく、その症状は時間とともに進行するため、医療分野だけでなく、介護分野、さらには地域で、認知症の人を支える必要性が指摘されてきました。 そこで、関係府省庁が共同で策定したのが「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~」(新オレンジプラン)です。新オレンジプランの目標は、「認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指す」ことであり、その具体的な柱のひとつとして「認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供」が掲げられています。認知症と共にある社会で*1 見当識障害:見当識とは、現在の時間(年月日)や、いま自分がいる場所はどこなのか、また、対人関係など、自分が置かれている状況を認識する高次脳機能で、見当識障害はこれらが正確に認識できなくなる状態。*2 BPSD:認知症の症状として必ず見られる「中核症状」(記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能の低下)に対し、そこから派生して発現する「周辺症状」で、徘徊、ものとられ妄想、ささいなことですぐ怒り出すといったものがある。この発現は身体の具合や環境によって影響され、適切な対応で防げる可能性がある。平野浩彦 東京都健康長寿医療センター研究所・歯科医師 認知症の人は、記憶障害、見当識障害*1などにより、その人を取り囲む環境とのかかわりが困難となり、日常生活の不具合(周辺症状:BPSD)*2が顕在化します。認知症の好発年齢である80代以上の日本の高齢者は、現在では多くの現在歯数を有し、またインプラントなどの高度な医療も受けており、口腔衛生管理のニーズはこれまでの高齢者(特に後期高齢者)とは異なった課題を持ちつつあると言えるでしょう。 歯科医療従事者にも、認知症を理解して適切な歯科治療・ケアを提供することが求められますが、身体のなかでも繊細な部分である口に他人の手が入り行われる歯科治療は、周囲とのかかわりが困難となる認知症の人にとっては受け入れ難い場面がしばしば生じてしまいます。 これまで、小児や発達期障害を持った人への歯科治療では、さまざまなケア手法、コミュニケーション手法が提示され応用されてきました。認知症の人への一連の手法も多く提案されています。本稿では、そのなかでも近年フランスからもたらされ、日本でも急速に広まっている認知症介護技術として注目を浴びるユマニチュードに焦点を当て、歯科治療およびケアへの応用を考えてみたいと思います。学ぶ!社会と共存する身近な疾患になった認知症認知症の人にとって“ハードルが高い”歯科治療はじめにTouch45歯科衛生士 January 2018 vol.42

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