歯科衛生士 2018年8月
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①口腔外 ~口唇の乾燥を見逃さないで~ はじめに、6月号で紹介したようにポジショニングを整えバイタルが安定したら、口腔内外の観察から行っていきます。 口腔内を観察する前に、まずは口腔外の観察を行います(表1、図2、表2)。はじめは触らずに、口唇が乾燥していないか、口角が切れていないか、開口状態など口の動きを診ます。乾燥状態のまま口腔清掃を始めると、口角や粘膜を傷つけてしまうおそれがあります。また、誤嚥予防の観点や機能面からも、潤いがある方が動かしやすいためチェックします。 次に、口唇の内側や頬側などを確認します。患者さんとのコミュニケーションが可能な場合は、触れる前に「お口の中を拝見しますので、お口を開けてください」と声をかけます(開口指示)。これに従える場合は、診療室での診察と口腔内の観察はほとんど相違ありません。 指示を出しても開口できない場合は、歯科恐怖症など心因的なこと以外であれば、認知症や脳血管障害後遺症などによる影響が考えられます。口腔周囲に感覚過敏が生じていないか確認するため、まず頬や唇に指の腹をあて、口唇に力が入ったり、首を振ったりしないかを観察します。次に口の中に指を入れ、歯の外側に指をおきます。この時に頬をギュッと絞るように力が入る場合は、触られた刺激に対して過敏に反応していることがわかります。その対応として脱感作法を用います*1(図3)。 この他に、原始反射*2やオーラルジスキネジアが出現していないかを確認します。原始反射は、口唇に触れたときに唇を尖らせて探すような動き(探索反射)や口をすぼめる動き(吸啜反射)、または臼歯部に指を置いたとき、咬む動き(咬反射)がみられることがあります。また、オーラルジスキネジアは、口腔周囲に生じる反復性や常動性の不随意運動であり、安静時に下顎を左右上下にもぐもぐと動かしたり、舌を出すなど不規則な運動を無意識に行うものをいいます。原因不明な場合が多いですが、抗パーキンソン病薬、向精神薬の薬剤の影響で生じる場合もあります1)。 これらの反応を目にすると、介護者は「口腔ケアが嫌だから、拒否している」と思いがちです。本人の意思がある心因的な拒否なのか、感覚刺激の体験不足による触覚過敏なのか、感覚に対する防衛反応によるものなのか、反射の出現により起きている状態なのかを判断し、それに応じた対応を行います。過敏であれば系統的脱感作、原始反射やオーラルジスキネジアであれば開口保持方法を確立させます。まずは口腔内外の観察から*1 田中らによる報告2)では、要介護高齢者の介護拒否や開口困難への対応として効果的であり、系統的脱感作を取り入れたアプローチが口腔ケアを授与させる有効な方法だと考えられている。*2 正常な幼児が特有の刺激に応えて示す中枢神経系由来の反射行動。正常に成長し前頭葉が発達すると失われる。非定型の神経学的性質(脳性麻痺など)を持つ子どもや大人は、原始反射を保持している。認知症や外傷性損傷、脳卒中など、特定の神経学的症状に起因し、大人になって再び出現することがあると言われている3)表1 口腔外の観察図2、 表2 実際の口腔外の観察のようす70代、白血病患者。図3 脱感作の方法過敏症状の有無を確認する。口唇周囲に触れると過緊張し、筋肉が固くなっているのがわかる。口から遠いところから触れていき、徐々にマッサージをしていくと、次第に口唇の緊張が和らいでくるのが指の腹で感じることができる。観察項目何を読み取るか口唇炎症や傷の有無とその状態、乾燥状態舌炎症や傷の有無とその状態、乾燥状態、色歯の状態破折部位や鋭利なところが出現していないか、補綴物の脱離はないか口内炎や血腫の位置・状態どの位置にできているのか、咬合や補綴物との関係開口状態開口指示に対しての従命さ、開口量、開口保持可能な時間観察項目観察結果口唇軽度の乾燥、血餅の付着(右側上下、左上唇)舌咬傷によるものかは不明だが出血点がある、舌全体の血色が悪い歯の状態衛生状態の不良さが認められる、歯牙破折や補綴物脱離の印象はない口内炎や血腫の位置・状態舌先に2点出血点があり、左側は古いもの、右側は新しい傷と想像できる。咬合の位置からも義歯未使用時だと右側で咬合することになるため、誤って舌を咬み込む可能性は高いと想像できる開口状態指示従明で、開口は2横指程度可能。呼吸苦のため、短時間の開口保持可能71歯科衛生士 August 2018 vol.42

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