歯科衛生士 2018年11月
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 まず、1歳9ヵ月のお子さんの症例をみてみましょう。 母親が、1歳5ヵ月時に比べ、下顎左側乳中切歯が隣在歯と比較すると徐々に伸びて(萌出して)きたことに気づいたものの、そのままにしておいたとのこと。しばらくすると他の歯との段差がさらに目立つようになり、1歳7ヵ月時に抜け落ちたそうです。母親によると過去に顎顔面領域への外傷の経験はないとのことでした。 口腔内を観察しても、下顎左側乳中切歯の欠損以外に異常は認められませんでした。他の歯に動揺はなく、歯の脱落した歯槽堤を含め歯肉の色調や形態は正常でした。しかし、母親が持参した脱落歯は、根尖が開大した歯根が存在し、その表面に吸収痕は認められませんでした。 この時点で低ホスファターゼ症の可能性が疑われたため、小児科に紹介しました。血液検査と尿検査を行ったところ、カルシウム値、リン値は正常でしたが、アルカリホスファターゼ値は低値で、尿中のホスホエタノールアミン値は高値であったことから(解説は後述)、低ホスファターゼ症と診断されました。見逃したくない小児期の荒井 亮Ryo ARAI東京歯科大学小児歯科学講座助教・歯科医師新谷誠康Seikou SHINTANI東京歯科大学小児歯科学講座主任教授・歯科医師 乳歯が抜ける理由としてまず頭に浮かぶのは、「永久歯への生え代わり」ですよね。真っ先に疾患の存在を挙げる方は少ないと思います。しかし、外傷など脱落の原因と考えられる既往がなく、標準的な脱落時期以前に脱落する、かつ歯根吸収が起こらずに脱落する場合、実は重要な疾患の存在を暗示していることがあります。その代表例が「低ホスファターゼ症」です。 疾患の早期発見・早期治療ができれば、疾患の重症化や複雑化を防ぐことにつながりますが、患者さんにいちばん接する歯科衛生士にこそ、乳歯の早期脱落をきっかけとして重要な疾患を発見する機会がもっともあると言えます。そこで本特集では、低ホスファターゼ症の基礎知識から、スクリーニングのポイントなどについて解説します。illustration:ハラアツシ、飛田 敏年齢・性別1歳9ヵ月、女児主訴下顎左側乳中切歯の脱落既往歴医科的、歯科的に特記事項なし家族歴両親、4歳の兄に特記事項なし患者さんの基本情報低ホスファターゼ症を知っていますか?1歳7ヵ月で、乳前歯が抜け落ちた!CASETOPIC歯科衛生士 November 2018 vol.4264

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