歯科衛生士 2019年7月
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お望みの文献そろってます!あなたの研究を後付けする文献ありますあれ?裏付けじゃないの・・・?Illustration:大野文彰口腔と全身疾患の関連性が次第に明らかになってきました。本コーナーでは、疾患ごとに、現在どこまで口腔との関連性が明らかにされているのか、問題とされていることはあるのか、さまざまなエビデンスを紹介しながら実態をつかみ、一緒に考えていきたいと思います。「論文=信頼できる」は間違い!? 「エビデンス」という言葉を耳にしたことがあると思います。これは、簡単にいうと、ある治療法や検査法などの有効性を主張する場合に、それを裏付ける科学的な根拠のことです。この場合の科学的とは、「研究により実証されたこと」と解釈して差し支えありません。しかし、その研究も、論文化され、さらにそれが専門家により査読*1されたうえで専門雑誌に掲載されたものを引用する必要があります。 よく「エビデンスがない」という表現が使われますが、これには2通りの意味があります。ある仮説がクオリティの高い研究により否定された場合に使われる一方で、研究結果が論文により異なったり、データが曖昧だったり、クオリティの高い論文がなかったりした場合にも「エビデンスがない」という表現が使われます。この場合は、その仮説が否定されたわけではなく、「肯定も否定もできない」という意味になるので、注意が必要です。 現在、学会等での症例発表で、発表者がその症例で適用された術式等の正当性を裏付けるために、そのテーマに関する論文が引用されることが増えてきました。しかし、筆者が見る限り、まだまだ誤用が多いように思えます。たとえば、本来はある患者の治療方針を決定するために論文を参考にすべきところを、自分が行った治療に都合のよい論文を後付けで引用したと思われるケースがあります。その場合、引用した論文のクオリティが低かったり、他の結果を示すクオリティの高い論文が存在するという知識があれば、見破られてしまいます。つまり、論文ならなんでも引用してよいというわけではなく、論文のクオリティも十分に評価する必要があるわけです。また、その症例が、論文で対象となっている患者に似ているのか、術者のテクニックが十分なのかなど、考えるべき点は多くあります。研究のデザインで信頼性を見極める! ここまでで、「論文のクオリティ」といっても、それを評価できるようになるにはかなりの熟練が必要で、なかなか敷居の高い話と感ずるでしょう。そこで、まずは初歩的に、研究のデザインによってクオリティが違うということを説明したいと思います(いずれにせよ、本連載ではヒトを対象とした研究ということを前提にしたいと思います)。 まず、本連載で扱う口腔と全身疾患というようなテーマについては、大雑把に分けると「観察研究」と「介入研究」があります。観察研究とは、その名の通り、疾患の状態を観察するのみの研究で、治療等の介入は行われないものです。観察研究でもある程度のことは言えますが、歯周炎と全身疾患の関連を証明する強い根拠になりうるのは「介入研究」です。つまり、「歯周治療を行ったことで、歯周炎のみならず全身疾患も改善した」という結果が得られれば、その関係を裏付けるエビデンスがあると言えるわけです。しかし、介入研究にも種類があります。1症例だけの症例報告では、はっきり言って何も言えません。クオリティが高いのは、多数の症例を比較する「比較研究」で、さらに、比較対象とのグループ分けをする際に、ランダムに割り付ける「ランダム化比較試験(以下RCT)」がもっともクオリティが高い研究デザインです。 しかし、RCTが1本あればそれで十分なエビデンスがあるとは言い切れない場合が多く、さらに、RCTの中でもクオリティに違いがあります。このような場合、たとえばRCTの中でもさらにクオリティの高いものだけを集め、それらの研究結果を統合したシステマティックレビュー(以下SR)という形で分析されると、さらにエビデンスが強くなります。 口腔と全身疾患の関連については、そのメカニズム的なことに焦点が当てられることが多いですが、臨床においては、「実際どのくらい影響するのか」ということ、具体的にいえば歯周治療をするとどの程度全身に影響するか、というところがもっとも重要なことだと思います。したがって本連載では、極力RCTを取り上げながら、双方の関連性をみていきたいと思います。連載をはじめるにあたり、読者の皆さんへ知っておいてほしいことをまとめました。「信頼できる論文」っていったいどういうものなのでしょう?エビデンスの基礎知識関野 愉Satoshi SEKINO日本歯科大学生命歯学部歯周病学講座准教授・歯科医師歯科衛生士 July 2019 vol.4364

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