歯科衛生士 2019年7月
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酸蝕症小野綾菜Ayana ONO浪越歯科医院[香川県]歯科衛生士松尾 円Madoka MATSUO浪越歯科医院[香川県]歯科衛生士Adviser北迫勇一 Yuichi KITASAKO外務省大臣官房歯科診療所東京医科歯科大学大学院 う蝕制御学分野・歯科医師浪越建男Tatsuo NAMIKOSHI浪越歯科医院[香川県]院長・歯科医師Illustration:うつみちはる ここに、18年間メインテナンスに通ってきた患者さんの口腔内写真があります(図1)。初診時の口腔内写真を見返してみると、その時すでに進行した咬耗があります。3ヵ月ごとにう蝕、歯周疾患の管理を行ってきましたが、口腔内の状況は大きく変遷してしまいました。その間患者さんからは「しみる」「痛い」「噛みにくい」との訴えがあり、知覚過敏処置、抜髄、破折による抜歯、義歯修理、義歯新製とさまざまな治療を行いました。 この時、筆者らはtooth wearは加齢にともなう退行性変化として現れるもので、患者年齢に大きく依存し、経時的、生理的にある程度の歯質の損失は避けられないと考えていたのです。そのことから、「加齢とともにtooth wearは進行するもの」「患者さんがお好きな硬い食べ物とゴルフ時の強い咬合力により重度の咬耗が生じた」と説明し、患者さんも納得していました。 しかし、酸蝕症について学び、詳しく医療面接を行ってみると、これは酸蝕症例で、咬耗・摩耗などのtooth wear因子に酸蝕症が重なりwearの進行が早まってきた、いわゆるerosive tooth wearであると診断できました。当院の過去の長期症例を見返すと、そのような症例は少なくなく、う蝕の発症の加速もみられました。 この症例を通じて、tooth wearに対する筆者らの知識不足が重篤化のひとつの要因であることは否定できないと考え、酸蝕症に対する認識をあらため、酸蝕症が疑われる症例については口腔全体を特に細かく観察し、ていねいな医療面接などを行うようになりました。その結果、酸蝕症への臨床対応も、患者さんに寄り添うスタンスを目指す歯科衛生士の重要な役割の1つだと考えるようになったのです。 本稿では、酸蝕症を見逃さないため、その特徴と早期に気づくための観察ポイントを実際の症例写真とあわせてご紹介していきたいと思います。図1 メインテナンス歴18年患者の口腔内の変遷初診時(2000年9月、当時69歳)咬耗のほか、全顎にわたる平坦なファセットの存在、摩耗、歯頚部う蝕が認められる。18年後(2018年4月、87歳)tooth wearは確実に進行し、う蝕の発症もともない、欠損歯数が増加し、咬合も変化している。10年後(2010年7月、79歳)下顎中切歯の形態に著しく変化が認められる。tooth wearはしかたがない?77歯科衛生士 July 2019 vol.43

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