歯科衛生士 2019年8月
7/8

P.gingivalisの強さを握るTOPIC21世紀の特別編 800種とも言われる口腔細菌の中で、なぜP. gingivalisがもっとも病原性の高い歯周病菌なのか。それは、強力な病原因子をたくさんもっているからです(図1)。病原因子は細菌の武器そのもの。P. gingivalisほど強力な武器をもっている口腔細菌は他にはいません。 P. gingivalisの病原因子の中で、特に強力なものは線毛とジンジパインです。線毛はバイオフィルムを形成したり、歯周組織に侵入したりするために必要な付着因子(人間でいえば手足)です。そしてジンジパインは歯周組織やバイオフィルムのタンパク質を分解する酵素です。また、ジンジパインは付着因子としてもはたらきます。 P. gingivalisの病原性を語るうえで、この強力なタンパク分解能は無視できません。したがって今回は、タンパク分解酵素としてのジンジパインのはたらきを詳しく説明します。 今年の1月に、歯科界を揺るがす科学論文が発表されました。タイトルは「Porphyromonas gingivalis in Alz-heimer's disease brains:Evidence for disease causation and treatment with small-molecule inhibitors(アルツハイマー病の脳内に存在するP. gingivalis:病因である証拠と阻害剤を用いた治療)」1)。内容は、アルツハイマー病の原因は脳内に侵入したP. gingivalisであり、P. gingiva-lisが分泌するタンパク分解酵素であるジンジパイン(gin-gipain)が脳の神経細胞を変性させて認知症を発症させるというものでした。さらに、新開発のジンジパイン阻害剤によりアルツハイマー病が治療できる可能性も示されていました。掲載誌は『Science Advances』という一流ジャーナル。今回の仮説が正しいとすると、医学常識がひっくり返るといってもいい話なのです。 歯周病と認知症の関係はこれまでも指摘されていましたが、今回の論文はもっと説得力があり、P. gingivalisが認知症に関係している可能性は高まりました。もっとも、多量のP. gingivalisが脳内に移行するのは重度の歯周炎患者さんだけと考えられるので、皆が皆P. gingivalisが原因で認知症になるわけではないでしょう。ですが、今後の展開を注視すべき話題です。 ひょっとすると令和最大の話題になるかもしれないジンジパイン。しかし、P. gingivalisは知っていても、ジンジパインを知っている歯科衛生士さんはあまりいないと思います。ジンジパインを知れば、歯周病がもっとわかりやすくなります。ジンジパインはP. gingivalisの病原因子のひとつ令和最大の話題になる!?ジンジパインってなんだ歯科衛生士 August 2019 vol.4368

元のページ  ../index.html#7

このブックを見る