歯科衛生士 2019年9月
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ストレスをかけない歯科診療のためにできること は「ストレス」歯科診療で、どんなことがストレスとなるのでしょう? また、ストレスがかかるとなぜいけないのでしょう?ストレスを受けると、バイタルサインに変化が起きる 「歯医者に行くと緊張して血圧が上がる」という話を耳にします。恐怖心や不安感は、ストレスとなって、バイタルサインに大きく影響を与えます。受付の対応や待合室の雰囲気によっては、患者さんは、治療前にすでに大きなストレスを感じているかもしれません。配慮に欠ける対応によって、診療前に患者さんが受けるストレスは最大になっている可能性もあります。また、患者さんは疼痛で食事もとれず、眠れない夜を過ごして来院しているかもしれません。その状態で痛みをともなう治療や局所麻酔を使用すると、何が起こると考えられますか。 ストレス反応を起こす原因を「ストレッサー」と言います。歯科治療には、不安や恐怖(精神的ストレッサー)、痛み(身体的ストレッサー)、麻酔(薬物によるストレッサー)など、多くのストレッサーが存在します。患者さんに精神的、身体的、薬物によるストレッサーが加わると、患者さんの表情や顔色が変わったり、冷や汗が出る、ふらつくなど、ストレス反応である生体応答が起きます。このような生体応答が患者さんの「予備力」を超えてしまうと、全身状態に変化が起き、たとえば血管迷走神経反射*1による意識消失や、血圧上昇による脳血管障害が起こります2)。予備力とは、個々が持っている体力・生理機能能力と、通常使用している体力・生理機能能力との差で、ストレッサーに対応する能力のことです。 特に小児は予備力が小さく、また高齢者は加齢にともない予備力が低下しているため、歯科治療を行う時にはストレッサーを与えない配慮が必要です。高血圧症の高齢者とスポーツをしている成人では、見た目からも明らかに予備力の大きさが違います。しかし、いくら見た目に予備力があるようでも、恐怖心が大変に強い患者さんもいます。患者さんの予備力を判断するために、医療面接時から歯科衛生士が同席することも大切で、それによって得た情報から患者さんに合わせた対応を心がけます。診療補助時の配慮によって、患者さんに与えるストレッサーをできるだけ少なくすることで、生体応答が患者さんの予備力に収まれば、安全に治療は終了します。*1 血管迷走神経反射:歯科治療中もっとも多い全身的偶発症。自覚症状は悪寒、悪心、めまい、脱力感。他覚症状は顔面蒼白、血圧の低下、徐脈、冷や汗、嘔吐、意識レベルの低下があげられる。体調不良や睡眠不足などがきっかけとなりやすいが、歯科治療に対する不安や恐怖、痛みや刺激が原因となる。なにがストレスの原因(ストレッサー)になる? 種類ごとにストレッサーをまとめるとともに、ストレッサーをなくす、または減らす方法について次ページに記述します。患者さんのストレッサーにならない対応の基本●表情:マスクをしていても患者さんに表情は伝わる。笑顔、優しい表情で。●態度:患者さんの立場になり、ていねいに細やかに接する。例急に腕をとってマンシェットを巻くのではなく「血圧を測りますので、腕に巻きますね」と一言説明してから行う。●身だしなみ:医療職として不必要な装飾品は身につけない。また、においのきつい香水やボディクリームは避ける。自分が患者だったら「口腔内を診てほしい」と思える身だしなみを心がけているか。●声かけ:患者さんの目を見て、優しく落ち着いた声で話しかける。例「緊張されてますね」「大丈夫ですよ」「寒くないですか」「○○しましょうか」「なにか不快なこと(嫌なこと)はないですか」51歯科衛生士 September 2019 vol.43

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