歯科衛生士 2019年9月
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 口腔外科手術を要する患者さんの場合、手術は病院や専門医などへ依頼し、術後、自院へ戻ってこられるパターンが多いのではないでしょうか。その際、患者さんがどのような手術を行い、どのような経過をたどったかを知ることは歯科衛生士にとって術後のサポート体制を整えるうえでとても重要であると考えます。このような情報を共有し患者さんの病に共感することで、より質の高い医療が提供できるのではないでしょうか。 術後、歯の喪失や顎切除、舌切除、植皮、皮弁移植、リンパ節頚部郭清など口腔内外に生じる変化に戸惑う患者さんは少なくありません。特に口腔がんの場合、手術は病変部位だけでなく、病変周囲の筋肉、神経や骨を含めて広範囲に切除されることが多く、開口障害や構音障害、運動障害、摂食嚥下障害、鼻腔や上顎洞への交通のほか、粘膜や皮膚の感覚異常、さらには口腔清掃状態も不良になり、患者さんのADL(日常生活動作)やQOLに大きな影響を及ぼします。そのため、術後の口腔健康管理が重要となってきます。 退院後は「食べるのに時間がかかるようになったから、もう友だちと外食に行けない」「噛むと痛みがあるので丸飲みしている」「腕がだるいので歯磨きができない」「錠剤が口の中でどこにいったかわからない」など食事の摂取や口腔内のセルフケアに不安を訴える患者さんも多く、より一層のサポートが必要と感じています。 侵襲の大きい口腔外科手術後の患者さんに対して、歯科衛生士としてもっとも大切なことは、口腔内を清潔にする重要性を伝え、術後の感染を防止し、残存歯の維持・管理を行い、食事(摂食・咀嚼・嚥下)および会話を楽しんでいただくことだと考えます。そこで、次ページからは、術後の影響が大きい術部について術後のケアや指導方法を中心にまとめました。患者さんと歯科衛生士をつなぐ一助となれば幸いです。術後の患者さんは不安だらけ村井亜希子 歯科衛生士辻 要 歯科医師右側下顎エナメル上皮腫(良性腫瘍)の患者さんCASE術前術後4年8765部下顎骨に境界明瞭なエックス線透過像あり。765の歯根吸収が著明で、下顎骨下縁の著明な膨隆あり。下顎管は下方に圧迫。全顎、歯肉腫脹発赤あり。頬舌側に多量の歯石沈着が認められ、PCRは90%だった。移植骨の生着は良好。う蝕により34コンポジットレジン修復処置。2歯肉退縮あり。全体として歯周組織の炎症は落ち着いている。 初診時34歳男性で、2013年9月に、近医の紹介で右下頬部腫脹を主訴に当院に来院されました。同年10月76抜歯、開窓術が行われ、病理組織診の結果、エナメル上皮腫と診断されました。経過観察を行うも透過像の減少は認めず、全身麻酔下にて右側下顎区域切除術、腸骨移植チタン金属プレート固定術、その後プレート除去術が行われました。 術後は軽度の開口障害があったため食事指導をし、3ヵ月後には常食摂取が可能に。歯石が沈着しやすく、口腔内への関心が低かったため、口腔衛生管理の重要性と必要性を繰り返し指導しました。セルフケアのモチベーションが向上し、経過は良好です。81歯科衛生士 September 2019 vol.43

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