歯科衛生士 2019年11月号
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Illustration:大野文彰口腔と全身疾患の関連性が次第に明らかになってきました。本コーナーでは、疾患ごとに、現在どこまで口腔との関連性が明らかにされているのか、問題とされていることはあるのか、さまざまなエビデンスを紹介しながら実態をつかみ、一緒に考えていきたいと思います。関野 愉Satoshi SEKINO日本歯科大学生命歯学部歯周病学講座准教授・歯科医師第5回残存歯が多いほど長寿だといわれますが、実際のところ、どのように影響するのか、みていきましょう。歯の喪失死亡歯の喪失は咀嚼機能に関与する これまで歯と全身疾患について取り上げてきましたが、ここで一つの疑問が生じます。「歯の病気がそんなに体に悪いなら歯など抜いてしまえばいいのではないか」という考えです。たとえば糖尿病に関してこのような研究があります。Khaderら1)は、重度の歯周炎をともなう糖尿病患者に対して、実験群では全部の歯を抜歯し、対照群では抜歯せず、そのまま保存しました。その結果、実験群でのみHbA1cの有意な改善が見られました(図1)。すなわち、全顎を抜歯したことで血糖コントロールが改善したというわけです。これは、全身疾患への影響を考えれば歯周炎の歯は抜歯すべきという考えを裏付けるものでしょうか。 しかし、ここで考えなければいけないのは歯の喪失による咀嚼機能の低下です。これは、生活の質を下げる可能性だけでなく、食生活に偏りが生じることで、体に悪い影響を与える危険性が懸念されます。 このような背景から、今回は歯の喪失と全身との関連について、特に「死亡」に焦点を当てて、エビデンスに基づいて考えていきたいと思います。これまではRCTによる介入研究を取り上げてきましたが、今回のようなトピックの場合、RCTを行うとすると、ランダムに2つのグループに分けて、一方は歯を保存し、もう一方は歯を抜去し、死亡するまでそのまま観察するというようなデザインになります。当然のことながら、このような研究は、倫理的に困難です。したがって、今回は観察研究を中心に見ていきます。Khaderら(2010)による研究の結果、全顎の抜歯を行った患者においてHbA1cの有意な改善が見られた。(文献1より引用作成)図1 HbA1cの比較(%)8.88.68.48.27.87.687.47.2BL3ヵ月後HbA1c6ヵ月後7実験群対照群63歯科衛生士 November 2019 vol.43

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