歯科衛生士 2020年3月号
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治癒の考察から導く、DHの炎症コントロール歯周炎が治るとき、歯周組織にはなにが起きている?[後]感染をコントロールする組織学的な治癒像(治癒のパターン) 歯周炎の第一の治療目的は原因除去療法です。すなわち、根面のデブライドメントを行い、徹底的に感染を除去し、その状態を長く維持することです。もし、理想的にこの感染除去療法が患者と術者の努力で実行された場合、下記のような治癒が順次起こってくる可能性が考えられます。 もっとも、下記の治癒のパターンは、感染が十分に除去され、その状態が長期間維持されたときに期待できる現象であり、また、意図的に起こすのではなく、生体の自然の治癒力によって徐々に獲得されると考えておきたいと思います。いずれにしてもこれらの治癒像(パターン)がいくつか組み合わさって、冒頭の症例である図1(前編P.35〜37)の治癒が生じてきた(生じている)と考えられます。臨床的治癒像 次ページから、ここまで示した歯周炎の治癒に関する推論(仮説)を、実際の臨床で見られる歯周炎の治癒の考察に応用してみたいと思います。*動物実験では、上皮付着が自然治癒過程で新付着に置き換えられることが示されているが8)、その程度や予知性はヒトでは未知数である。*新付着:ここでは、歯周炎によって歯根膜が喪失した根面に、歯根膜細胞が新セメント質を形成しながら増殖して、歯根面を再被膜し、結合組織性付着が再確立されること。長い上皮性付着の獲得3骨のみの再生4歯根膜の再生5歯肉が引き締まることや、骨が修復再生してくることで、歯肉が滑沢かつ無毒的な根面にある程度の圧力をもって押し当てられた状態が維持されれば、長い接合上皮が形成される6)。TIBV(歯非依存骨)は、感染が除去されれば理論上は再生する(元に戻る)はずである。すなわち、歯根膜の再生がなくても骨は元に戻る7)。ただし、どれくらいの量(高さまで)骨が自然回復するかは、周囲の残存骨の高さや幅に左右されると考えられる。一方、歯根膜の再生がないかぎり失われたTDBV(歯依存骨)が再生することはない。言い換えれば、骨造成で骨をTIBV以上に再生させても長期間その新生骨を維持できない。もし、本当に歯根膜が臨床的に再生し、長期間その状態が維持されれば、歯周組織はほぼ元に戻ることが期待できる。歯根膜の再生はセメント質と固有歯槽骨の再生をともなうので、結果として、歯周組織全体が再生することになる*。新付着(歯根膜の再生)が起こっているかどうかは、TDBVをCBCTで確認することで確認できる。たとえば、上顎中切歯では、唇側の歯槽骨が再生、維持されているかどうかで、歯根膜が再生したかどうかがわかる(場合がある)。図5bの反対側の中切歯のCBCT像。歯周炎には罹患しておらず、正常な歯根膜と骨が保存されている状態像を示す。図5b(前編P.43)の治癒後のCBCT像。喪失した骨はある程度戻りつつあるが、新付着*は起こっていないと思われる。引き締まった歯肉では(2歯肉の適合が維持されれば)、上皮は接合(付着)上皮に変わる可能性がある。このような状態を「長い上皮性付着」とよぶ。垂直性の骨欠損の部位で、歯根膜の再生をともなわない骨のみの再生(TIBVの再生)が生じた。長い期間炎症のコントロールが保たれ、もし歯根膜が再生すれば、TDBVも回復することから、失われた歯周組織全体が再生する。55歯科衛生士 March 2020 vol.44

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