歯科衛生士 2020年4月号
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2特集緊急企画 2020年に入ってから世界中で感染が拡大している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。甚大な影響が続くなか、重症化しやすいといわれる高齢者や有病者に接することも多い歯科医院での感染は絶対にあってはなりません。皆さんの医院では、今回のような緊急事態だけでなく、日頃から院内感染対策を確実に行えているでしょうか? 本稿では、基本でありながら抜かりがちな手指衛生を見直します。(編集部)中村健太郎 Kentaroh NAKAMURAShurenkai Dental Prosthodontics Institute[愛知県]院長・歯科医師インフェクションコントロール リサーチセンター センター長伊藤磨樹 Maki ITOShurenkai Dental Prosthodontics Institute[愛知県]歯科衛生士一般社団法人日本医療機器学会第2種滅菌技士NPO法人日本・アジア口腔保健支援機構第一種歯科感染管理者 中村健太郎 歯科医師院内感染対策の基本でありながら疎かになりがちな手指衛生Illustration:吉田真琴(弓矢図版工房)“院内感染対策の要は滅菌”は真実か? 歯科の院内感染対策というと、ハンドピースの滅菌や汚染器材のクラスBオートクレーブによる滅菌の必然性についてよく聞かれます。これまでの多くの指南書では、汚染器材の滅菌が院内感染対策のもっとも重要な業務であると位置づけられていますが、はたして本当にそうなのでしょうか。 その証拠に、スチームステリライザー(高圧蒸気滅菌器)が存在しなかった昔の時代、すなわちシンメルブッシュ煮沸消毒器の時代でも重篤な院内感染が蔓延することはありませんでした。 つまり、院内感染対策においては、滅菌以外に重要な要素があるということが考えられます。では、その背景を見てみましょう。手を洗うと発症率が下がるという大発見 18世紀の出産では、分娩時における産さんじょくねつ褥熱によって10人に1人以上が死亡するという深刻な状況でしたが、産褥熱は予防不可能な病気とされてきました。そんななか、1847年に、ハンガリー人で産科医のイグナッツ・ゼンメルワイスは、術前の手洗い、すなわち手指衛生を行うことで産褥熱の発症率が激減することを証明し、「医療従事者は手指衛生を徹底してから次の治療に臨むべきだ」と主張しました。しかし、細菌感染の概念がないばかりか、病原菌の存在すら知られていない当時、それが受け入れられることはありませんでした。医師らは、「神聖な医師の手が汚れるはずはない」と主張し、また毎回手を洗うことなど面倒だと反論したのです。 医師であり作家でもあるルイフェルディナン・セリーヌが「感染予防の天才であった」とゼンメルワイスを称賛したのは、彼の死後60年も経ってからでした。今日、ゼンメルワイスは「病院衛生と消毒の現代的理論の父」または「院内感染予防のパイオニア」と称されています。こうして、手指衛生はようやく医療従事者にとって院内感染対策の常識として受け入れられるようになりました。基本はアルコール製剤による手指消毒 それにもかかわらず、21世紀になってもいまだに手指衛生が十分に実践されていないと世界保健機関(WHO)は結論づけており、手指衛生の重要性を啓発する「Clean Care for all – it’s in your hand」(すべての人に清潔な治療を―あなたの手指が患者さんを守る)というキャンペーンを世界中に展開せ手指衛生こそが感染対策!ゼンメルワイス院内感染の90%は手指が原因歯科医療従事者の正しい 歯科衛生士 April 2020 vol.4446

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