歯科衛生士 2020年4月号
4/8

ざるを得ない状況です。WHOは、安価で容易であり、かつ院内感染に対する効果が即効性に表われるとして、アルコール製剤による手指消毒を推奨しています。 これまでアルコール製剤や抗菌石けんは世界中で広く用いられ、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などのさまざまな院内感染対策に貢献してきました。ただ、最近になって、米医学誌『Science Translational Medicine』にバンコマイシン耐性腸球菌エンテロコッカス・フェシウムはアルコール製剤でも増殖傾向が認められ、細菌のアルコール耐性が院内感染の要因の一つとなるのではないかと示唆した論文が掲載されました。その根拠として、近年の細菌は概してアルコール耐性が強く、死滅するまでに時間を要してしまうことを挙げています。しかし一方で、アルコール製剤による手指消毒は一定の効果を期待することができ、けっして無効ではないとも考察されています。つまり、現時点ではアルコール製剤による手指消毒が手指衛生の基本であることに変わりはありません。それは、歯科医院においても同じなのです。今こそ手指衛生について見直しを! 後述のとおり、 歯科治療では、患者さんの口腔内が「感染拡大のスタート地点」であり、患者さんの唾液が「感染拡大のメッセンジャー役」となります。患者さんの唾液と接触した器材やグローブ、唾液を含んだ歯科材料、またはそれらに接触した手指や部位もすべて汚染されているもの(コンタミネーション)として予防策(ディコンタミネーション)を講じる必要があります。なかでも、術者の手指からの院内感染が最大90%を占めていることから、手指衛生が院内感染対策のもっとも重要な鍵となるのです1)。これを機に、今一度手指衛生について見直してみませんか。とりあえずの手指衛生では感染は防げない! これらの写真は、手洗いチェッカー(サラヤ)による、手指衛生の状況を示したものです。専用ローション(試薬)を手についた汚れや細菌に見立てて、特殊ライト下で光らせています。これを見ると、手指衛生が不適切な場合、専用ローションはかなり残っています。すなわち、実際の汚れや細菌もかなり残っていることになります。手指全面にローション(試薬)を塗布した状態。ローション(試薬)はほとんど除去されている。広い範囲でローション(試薬)がかなり残っている。適切な手指衛生を行えば……とりあえずの手指衛生では……4Cホール午前10/18(日)講演者論文 手指衛生47歯科衛生士 April 2020 vol.44

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る