歯科衛生士 2020年7月号
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Illustration:サタケシュンスケ、キムラみのる[第7回] 成人の矯正治療治療を始める前に知っておきたいことを説明しましょう かつては矯正治療=小児が行うものと考えられていましたが、近年、人口に占める子どもの割合の減少や、口元の美しさに対する意識の変化もあり、多くの成人の患者さんが矯正治療を受けるようになっています。小児と違って、成人の口腔内では歯周病や修復処置歯、欠損歯などの存在が見られることが多くあります。また成人の場合、一般的に矯正装置に対する審美的要求も高いです。 このような成人の患者さんが矯正治療を始めようとする際に、その注意点についてわかりやすく説明できるようになりましょう。矯正治療について情報提供する際に知っておくべきこと成人の矯正治療はQOLの向上を目指すもの いわゆる不正咬合の代表的なものには、上顎前突(図1a,b)、下顎前突(図1c)、開咬(図1d)などがあります。これら不正咬合の重篤度の度合いは個々人によってさまざまで、たとえ客観的に矯正治療を受けたほうが良いと考えられる患者さんであっても、その患者さん自身は見た目や咀嚼機能上もまったく必要性を感じていないこともあります。審美的な問題はデリケートな話ですが、図1に示すような症例では、口腔機能上の問題(咀嚼機能障害、発音障害など)が疑われます。もし患者さん本人が口腔機能に関し何らかの問題を感じている場合はもちろんですが、図1a,bの患者さん(歯肉外傷のように自覚症状がなくとも歯の保存にかかわる問題を有している患者さん)は矯正治療の対象となるでしょう。 また、冒頭でも述べたように、成人では欠損歯などのために隣在歯の傾斜や挺出が生じ、修復補綴治療が困難となっている症例もよく見かけます(図2)。このような症例においても矯正治療を行うことによって、生活歯の抜髄回避や、より望ましい修復補綴治療が可能となることがあります。事前の十分な情報提供が治療の満足度や信頼にかかわる このような問題に加えて、近年では小児・若年者だけでなく幅広い年代の患者さんが矯正治療を希望されるケースも増えています。動機はさまざまですが、矯正治療に関して「大人でも受けられるのか」という不安はもとより、痛みが生じる理由や抜歯の基準、矯正装置の種類、後戻りなどについて疑問をもたれていることも多いです。患者さんが矯正治療を希望、あるいは検討されている場合、たとえ自院で矯正治療を行っていない場合でも、かかりつけ歯科医院の歯科衛生士の皆さんからこうした疑問に対して情報提供する意味は非常に大きいです。何より、治療前に十分な情報提供をしておくことで、矯正治療の満足度はもちろん、その後の皆さんとの信頼関係にもつながります。したがって、医療提供者の立場から、患者さんの心理的側面にも配慮しつつ、矯正治療を行う意義について、矯正治療の利点・欠点(図3)を提示し、受診するかどうかの判断材料としていただくとよいでしょう。 そこで本稿では、矯正治療そのものの原理に加えて、特に成人ならではの治療中のQOLやリスクにかかわる部分について患者さんにどのように説明したらよいかご紹介します。加治彰彦Akihiko Kaji半蔵門ファミリア矯正歯科[東京都]院長・歯科医師 68歯科衛生士 July 2020 vol.44

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