歯科衛生士2020年9月号
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唾液の分泌を促進する 咀嚼は、人間が生まれてから死ぬまでにみられる発達と減退の過程においても変化します。たとえば、加齢により口腔機能が衰退すると、徐々に咀嚼は困難となり、特に硬いものや繊維質のもの、弾力のあるものが食べづらく、品数が限定されると食事の楽しみも半減します。また、咀嚼力が低下した高齢者は、食事中に十分な食塊形成ができないままがんばって嚥下しようとするため、誤嚥や窒息に陥るリスクが高まることが危惧されます。さらに、咀嚼ができなくなり、食べにくい食品のある者は、循環器系疾患による死亡率が1.8倍、呼吸器系疾患による死亡率が1.9倍に上がると報告されています11)。 こうした背景もふまえて、昨今高齢者の食支援について2 「噛む」の効用をエビデンスで知るPart 唾液には食塊形成を補助する役割があるエビデンス13)1食事中に食物をよく噛み、唾液が分泌されると、唾液中の水分、ムチン、α-アミラーゼのはたらきによって咀嚼しやすくなると言えます。特に、口腔乾燥している人では、その効果を実感しやすいようです。よく噛んで食塊形成を意識することは大切ですね。この研究からわかること1効用 食塊形成には、唾液の存在が非常に重要です。そこで、唾液の分泌が咀嚼の手助けになることがオランダから報告されているので紹介します。 19歳から41歳(平均年齢:24.8±6.3歳)までの20人(男性5人、女性15人)に同容量8cm3のトースト、パンケーキ、にんじん、ピーナッツ、ゴーダチーズを食べてもらいます。その後、各々の食品に、唾液の成分である①水分、②ムチン、③α-アミラーゼを添加した状態でも同様に食べてもらい、捕食から嚥下に至るまでの咀嚼筋活動と咀嚼回数の変化を比較検証しました。 すると、にんじんに関しては、何も添加せず咀嚼した場合と比べて変化はみられませんでしたが、その他の食物では、①水分、②ムチン、③α-アミラーゼを添加したほうが咀嚼筋活動、咀嚼回数ともに大幅に減少し、咀嚼しやすくなるという結果が得られました。特に、トーストやパンケーキのようにパサパサした乾燥食品では、その効果が顕著にみられました。また、②ムチン、③α-アミラーゼを添加すると、①水分のみを添加した場合に比べ、咀嚼機能をより大きく促進させることがわかりました。52歯科衛生士 September 2020 vol.44

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