歯科衛生士2020年9月号
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「噛む」の効用2020患者さんに伝えたい最新エビデンス&おすすめアプローチ「噛むこと」が身体に良いのは周知の事実です。では、根拠をもって患者さんに伝えられているでしょうか? ここでは、咀嚼の効用別にさまざまな論文を整理します。関心が高まるなか、嚥下について取り沙汰されることが多くなりました。しかし、そもそも嚥下の前段階である咀嚼がうまくできなければ、嚥下もしづらいのです。したがって、咀嚼の目的は「嚥下しやすい食塊を作る」ことであるとも言われています12)。 「噛むことの大切さ」については、なんとなくわかってはいるものの、実際に咀嚼の目的や意義について患者さんに説明するのはなかなか難しいことです。ここからは、患者さんが噛むことに興味・関心を示し、咀嚼と健康の関係を認識して有意義な食生活を送ってもらうため、噛むことの効用について考えてみましょう。唾液は食物の消化をサポートし、胃の負担を軽減してくれるエビデンス14)2唾液の味覚を敏感にするはたらきによって、おいしさが増すエビデンス15)3 唾液中に存在するアミラーゼ(唾液α-アミラーゼ:以下HSA)は、デンプンやグリコーゲンのα-1,4-結合を不規則に切断し、多糖ないしマルトース、オリゴ糖を生み出す酵素として知られています。特に、デンプンを胃で消化する際に重要な役割を担うと一般的に認識されていますが、口腔での活性持続時間が短いため、膵液α-アミラーゼの役割に比べてはっきりしたことがわかっていませんでした。そこで、パリサクレー大学(フランス)の研究チームにより、HSAが胃での消化にどのような役割を果たしているか調査されたので紹介します。 1人の非喫煙者にボランティア協力を得て唾液を採取し、In vitroにてフランスパンのパン粉(デンプン)を用いて消化実験を行いました。食後に生体内でみられる胃酸pHの低下速度を模倣した実験システムを作り、pHの変化によるHSAのデンプン分解活性の程度を観察しました。 すると、HSAのデンプン分解活性は、胃酸pH6.5~7の間でもっとも高い活性を示し、pH4付近では最大活性の50%、pH3~3.5の間では不活性となることがわかりました。そして、実験開始から最初の30分間に胃酸pH4まで上昇がみられ、デンプンの80%まで加水分解することがわかりました。 味覚の喪失は高齢者にとって重大な問題であり、生活の質と栄養に影響を与えます。そこで、ケンブリッジ大学(イギリス)の研究チームは、味覚と唾液の関係を調べるため、In vitroでの細胞モデルを作製し、加齢による味覚喪失に対する唾液の流動性との関連を検討しました。 60歳以上(n=25)および18~30歳(n=30)の計55人を被験者として、唾液の粘度、ムチン組成、および口腔上皮細胞へのムチン結合について分析しました。 その結果、高齢者の唾液は、若齢者の唾液に比べて粘弾性が低下し、口腔粘膜に付着しにくいことがわかりました。また、高齢者の唾液は、若齢者の唾液よりも苦味受容体の活性化を促進しませんでした(高齢者は苦みを感じにくい)。高齢者の味覚障害の原因は未だ不明な点が多いですが、この研究より、高齢者では、唾液の流動性の変化とムチンの機能喪失は、口腔粘膜の防御機能を低下させて味覚の喪失を招く可能性があることが示唆されました。この研究からわかること唾液は胃での消化作用に優れた役割を果たしていることがわかります。咀嚼することによって唾液が分泌されると、胃の負担も軽減してくれるのですね。この研究からわかること53歯科衛生士 September 2020 vol.44

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