歯科衛生士2020年10月号
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子どもの 偏食の悩みと解決のヒント発達障害など感覚に特性がある 発達障害には、多様な「感覚過敏」を持つ人が多いとされています。感覚過敏とは五感(視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚)の刺激に対してとても敏感になることで、発達障害以外の障害・疾患でも起こることがあります。また、感覚過敏とは逆に、五感が鈍い「感覚の低反応」を有している人や感覚過敏と感覚の低反応の両方を混在させている人もいます。 感覚過敏があると、通常では気にならない程度の匂いを不快に感じやすかったり、口の中での食物の感触や形状の変化が過剰な刺激となったりして、本人にしかわからない気持ちの悪さを感じやすくなります。舌や歯、顎や喉にも 「食べる」という行為は、食物という「異物」を体内に直接的に受け入れるという、もともと危険をともないやすい行為なので、五感で「食べられない」と認識したものに対して、身体が生理的に拒絶してしまいます。とくに初めて口に入れる食物への挑戦は一大事です。  こうした苦手は通常、「食感は嫌だけど味は好き」という具合に徐々に慣れていきますが、過敏の程度によっては乗り越えることが難しい場合があります。また、「お腹が空いた」という空腹感からくる食欲が苦手を克服してくれるものなのですが、前述した感覚の低反応の一つとして「お腹が空いていることを自覚しづらい」といったことがあることも知られるようになってきています。とくに異常はないのに、ある食感が喉を通る感覚が耐えられなくて飲み込めなかったりするのはこのためです。 匂いだけでなく、色や形、噛んだ時の音や食感など、感覚過敏があるとその食べ物を口に入れることができない場合があります。味の違いにも敏感で、少しでも違和感を持った食物は身体が受けつけません。 苦手の原因となる「感覚」は、本人にしかわからないものです。発達障害のある当事者に食の困難に関するアンケート調査をしたところ、 保護者・教師や周りの人には理解しづらい以下のような感覚的な「苦手」が挙げられました。このように、個人によってさまざまな「感覚」を持っているのです。 新たな場面・環境・状況において「不安・ 緊張・恐怖・抑うつ・ストレス」などを抱きやすい発達障害の特性の面からも、食事場面において未経験の食物を拒ませ、特定の食へのこだわりともいえる「偏食」が現れている可能性が高いと考えられます。子ども本人にしてみれば、未経験の食物よりも、以前に食べたことがあって「安心・安全・信頼」できる食べ物を選んで食べていること(「食の選択性」)を、周囲からは「偏食」「好き嫌い」「わがまま」と一方的に非難されているともいえます。人の輪の中でどのように振る舞えばいいのかわからないので会食は恐ろしい自分が何を食べたいのかわからないので、毎日同じものを食べる見るだけで気持ち悪かったり、こわい食べ物がある食堂、パン屋、魚売り場、レストランの厨房などは匂いが強く、吐き気をもよおす大人数の食事は、音や匂いなどの情報があふれて辛いお腹がすくという感覚がよくわからず、気がついたらひどくお腹がすいていることがある異常に喉が渇き、1日に何リットルも飲み物を飲んでしまういつもと違う順序、違う時間に食べることは苦痛食べたことがないものへの「不安」が現れる感覚の過敏や低反応が「こだわり」として現れる(調査対象:発達障害の診断・判定を有し、発達障害についての認識・理解を有する高校生以上の本人137名)49歯科衛生士 October 2020 vol.44

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