歯科衛生士2021年2月号
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症例をシェアして、ステップアップ!Case40はじめに―非外科処置のみで歯周炎を改善させる意義― 歯周治療では、病状を初診時の状態のみで断面的に捉えて判断するのではなく、患者さんの年齢、現在の口腔内や歯周組織の状況を確認し、さらに十分な問診や医療面接により過去の状況を把握しておくことで、未来の予測につながると言われています。また、患者さんの感受性や生活習慣を考慮し、時間軸で結果を見続け、良い状況を維持すること、時間の経過とともに現れる患者さんの変化を見逃さず、最適なメインテナンスを続けることも課題とされています。 私たちが診療室で目にする歯周病の臨床像は多様で、進行程度もさまざまですが、現在当院では歯科衛生士の技術の向上により、多くの症例でSRPのみの対応で良好な結果を得ることができるようになってきました。侵襲、疼痛が少ない処置により、患者さん自身が治療効果を実感する機会が増えると、信頼度の高まりを感じ取ることができます。 一方で、骨欠損内に感染性不良肉芽組織が存在したり、盲目下で根面へのアクセスが困難だったりする場合、どうしても歯周外科処置の検討が必要な症例もあります。しかし、歯周外科処置を行った場合、非外科処置に比べて大きな歯肉退縮が生じることは明らかであり、時間軸で考えた際、特に根面う蝕のリスクが高くなると予想される症例ではそのジレンマに悩むことがあります。また、稀に歯周外科処置に対して頑なに難色を示す患者さんもいるようです。 そのようななかで今回は、重度歯周炎に対して歯周外科処置を行わず、適切なSRPを行ったことで、その必要性と効果をあらためて認識できた症例を報告します。適切なSRPの必要性とその効果が再認識できた重度歯周炎症例[キーワード] SRP、重度歯周炎●32歳●2009年瀬戸内総合学院歯科衛生学科卒業●歯科衛生士歴:12年目●勤務形態:常勤●勤務先:日本歯周病学会認定歯科衛生士が4名在職。予防を基礎に据えた診療体制の下、非常勤を含めた各分野の専門医が診療にあたっている。近年では開院当初からの「こだわりの院内感染予防対策」に注目が集まることも多い。小野綾菜さんAyana Ono浪越歯科医院[香川県]歯科衛生士日本歯周病学会認定歯科衛生士今回症例を紹介してくれるのは……表1 患者さんの基本情報年齢、性別62歳(2014年12月初診時)、男性主訴他の医院で歯周病の治療を受けているが、改善せず腫れぼったい現病歴右下臼歯の痛みのため、急遽職場近くの医院を受診し歯周治療を受けていた歯科的既往歴50歳(2002年)ごろに6の自然脱落をはじめ、その後10年間で67の自然脱落があったが、忙しさから受診には至らなかった。初診時より3ヵ月前(2014年9月)から職場近くの歯科医院にて歯周治療とブラッシング指導を受け、765はブリッジによる補綴処置を受けた全身的既往歴服薬の特記事項なし。初診時より半年前に人間ドックにて糖尿病予備軍と診断され、生活習慣の見直し、指導を受けている喫煙歴20歳から50歳まで1日30本の喫煙習慣があった家族歴妻と2人暮らし。近所に娘夫婦、孫が住んでいる職業公務員81歯科衛生士 February 2021 vol.45

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