歯科衛生士2021年6月号
5/9

読者が聞きたいこと、 読者の皆さんからいただいた質問に、各特集の著者の先生方に答えていただく恒例の人気企画。今回は、2020年下半期(7月号~12月号)の分の特集への回答をお届けします。(編集部)Illustration:根岸美帆、佐々木 純、石山綾子、コージー・トマトカリオグラムにおける「食事内容」の位置づけが知りたいです。不可欠ではありませんが、全身の健康のためにも考慮してほしい項目です。 まず、カリエスリスク評価において食事内容を調べることが不可欠かどうかということについて、正確には、カリオグラムでは不可欠とは言い切れません。カリオグラムの評価項目には10の項目(う蝕経験、関連全身疾患、食事内容、飲食頻度、プラーク量、Mutans streptococci、フッ化物プログラム、唾液分泌速度、唾液緩衝能、臨床的判断)があり、そのうち7つのスコアを入力するとカリエスリスク評価ができるようになっています。つまり、「食事内容」を省略しても、他で7項目を満たしていれば、カリエスリスク評価ができます。 カリオグラムのマニュアルでは、「食事内容」のスコアは唾液中ラクトバチルス菌(LB)の量を参考に0~3で付けるよう書かれていますので、細菌検査をしていない場合には「食事内容」を省略されるかもしれません。飲食頻度は食事調査からでもスコア化しやすいですが、食事内容を細菌検査と同等に客観的にスコア化するのは難しいでしょう。 これらのことをふまえたうえで、カリオグラムにおける「食事内容」の位置づけについてご説明しましょう。カリオグラムの各項目のスコアを試しに変えて遊んでみると、「フッ化物プログラム」には他の項目に比べて大きな影響力が与えられていることが明らかです。これは、フッ化物には過去の多くの研究で高いう蝕予防効果が示されていることを反映しています。一方、「食事内容」についてはそれほどの影響力はありません。しかし、「飲食頻度」と合わせて食事の因子としてう蝕の発症にかかわることは軽視できません。さらに、2015年にWHO(世界保健機関)が糖類摂取量のガイドラインを発表したことを機に、歯科専門家も患者さんの全身の健康のために積極的な食事指導をしていく責任があります。A1Q1カリエスリスク その評価方法とカリオグラムカリオグラムの評価項目の1つである「食事内容」について、P.36で「『食事内容』だけを省略した場合では、結果が有意に変わってしまった」と紹介されていました。カリエスリスクの評価に食事内容は不可欠かと思いますが、カリオグラムにおける位置づけをもう少し知りたいです。FROM7月号TOPIC予防歯科先進国・スウェーデンのカリオロ ジーに基づき、「う蝕のリスク」についてあらためて振り返り、カリオグラムを中心にカリエスリスク評価について解説しました。1特集臨床での各種検査、ただマニュアル的に実施してしまっていたりしませんか?本来、カリエスリスク評価を行う際には、現在わかっているエビデンスをできるだけ客観的に患者さんに示し、どこまでの検査を行うかを患者さん自身に選んでいただく必要があります。そのためには、歯科衛生士自身が「その検査では何を調べているのか」「なぜ必要なのか」をよく理解していなくてはなりません。本稿では、予防歯科先進国・スウェーデンのカリオロジーに基づき、「う蝕のリスク」についてあらためて振り返り、カリオグラムを中心にカリエスリスク評価についてご解説いただきます。(編集部) これは筆者が作成した「捻れたバー(または最小侵襲介入)」のシンボルマークです。このマークは、ドリルを使って歯の組織を切削しようとする前に、われわれはう蝕を予防し阻止するためのあらゆることを行うべきだと提案するものです。 世界中どの国でも、「う蝕治療」というと、修復などの処置が中心とされますが、そういった処置でう蝕を治癒できるわけではありません。私たちはむしろ、予防に焦点をはじめにダン・エリクソンマルメ大学・歯科医師24歯科衛生士 July 2020 vol.44P024-038_DH07_toku1.indd 242020/06/11 15:09その評価方法とカリオグラムCaries Risk —Its Assessment and the Cariogram—当てるべきです1)。う蝕が現在世界でもっとも蔓延している疾患となっているのは、現代社会では遊離糖類*1がふんだんに得られるためです。遊離糖類は、ソフトドリンク、ジュース、朝食用シリアルなど、至るところに存在しています。 しかしながら、この疾患の罹りやすさには、患者さん(および歯科医療従事者)によって大きな差があることも事実です。この多因子性疾患を効果的に予防したり治療するというのは複雑な課題です。個人のリスク評価に基づき、その人にもっとも関連するリスクファクターにターゲットを絞る必要があります。 そこで本稿では、カリエスリスク評価の原則、背景、臨床的事項を解説します。読者の皆さんがデータを収集・分析するにあたって、さまざまな補助的方法(コンピュータ・プログラムや系統的な方法)をもっと効果的に使えるようになっていただくことが本稿の目的です。西 真紀子Makiko NISHINPO法人「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」(PSAP)新潟大学医歯学総合病院予防・保存系歯科(予防歯科)歯科医師ダン・エリクソンDan ERICSONスウェーデン・マルメ大学歯学部カリオロジー科教授歯科医師Illustration:根岸美帆©Thorbjørn Egner子どもたちにむし歯がどうしてできるのかを伝え、ブラッシングの大切さがわかるお話として、スウェーデンをはじめ多くの国の言葉に翻訳されているノルウェーの絵本。左は心配性なカリウス、右は楽天家のバクトゥス。ふたりはブラッシングをさぼりがちな子どもの歯に住みついている歯のこびとで、それぞれの名前はカリエスとバクテリアをもじっています。 『カリウスとバクトゥス』(トールビョルン・アイナー作)1. う蝕とカリエスリスク Caries and Caries Risk2. 人類とう蝕 Mankind and Caries3. リスク評価に関するステップワイズアプローチ(WHOのSTEPS)  A Stepwise Approach in Risk Assessment(the WHO STEPS)4. カリオグラムを用いたカリエスリスク評価  Caries Risk Assessment Using the Cariogram5. カリエスリスク評価モデルと唾液検査の未来  Future of Caries Risk Assessment Models and Saliva TestsContents*1 遊離糖類:単糖類(ブドウ糖、果糖等)および二糖類(ショ糖)。25歯科衛生士 July 2020 vol.44P024-038_DH07_toku1.indd 252020/06/11 15:10西 真紀子NPO法人「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」(PSAP)・歯科医師78歯科衛生士 June 2021 vol.45

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る