歯科衛生士 2022年6月号
3/9

●喫煙●ホルモンバランスの変化●発酵性糖質の摂取●矯正装置の装着●社会環境●母乳/人工乳●おしゃぶりの使用●歯の萌出●混合歯列期●抗生物質の使用●口腔衛生習慣●母親の口腔の健康状態● 母親の細菌叢に対する免● 出産形態(経腟分娩/帝王 ヒトの口腔細菌叢は、個々人で異なります。では、どのような要因がその違いを形作るのでしょうか? 昭和の常識では、①遺伝、②環境、③宿主免疫系の相互作用によって、一人ひとりで異なる口腔細菌叢が形成される、と考えられてきました2)。そこに、令和の技術として最新のメタゲノム解析法による情報が追加され、新たな事実が見えてきました。 まず、母親のお腹の中にいる時期に、赤ちゃんが獲得する免疫寛容が赤ちゃんの細菌叢の形成に関与することがわかってきました。通常、私たちの体は、免疫機能が正常にはたらき、体内に侵入してきた菌や有害物質を排除することで健康な状態を維持していますが、母親の体に存在する細菌叢(口腔細菌叢や腸内細菌叢)を構成しているメンバーの菌に対しては、赤ちゃんの体で免疫反応がおこらないように調節されます。これが、免疫寛容と言われる現象です。その結果、出生後に母親の細菌叢に似た細菌叢が形成されやすくなると考えられています3)。九州大学の山下らは、福岡市東区の4ヵ月児健診に訪れた母子448組の口腔内から細菌群を採取し、遺伝子を高精度で分析した結果、ほとんどの乳児から母親由来の細菌を検出し、生後4ヵ月の時点ですでに細菌が母から子へと伝播していることを確認しています4)。 次に、出産時に通過する産道で、母親から子どもへと微生物が伝達されることが挙げられます。つまり、出産形態 (経膣分娩か帝王切開か)によって、子どもが最初にさらされる微生物の種類が決定されます。さらに、出産形態は、乳児期以降の口腔内微生物の多様性にも影響します。生後3ヵ月時点で、経膣分娩の子どもの口腔内には、帝王切開で生まれた子どもに比べてより多くの細菌種が存在することが報告されています6)。 乳児期にはこの他に、母乳か人工乳か、おしゃぶりを使用しているかどうかなども口腔細菌叢の形成に影響するという報告がありますが3)、それ以上に、歯の萌出は、細菌のコロニー形成の際に新たな表面(足場)を提供することから、子どもの口腔マイクロバイオームに大きな影響を与えます。その後成長とともに、混合歯列期、抗生物質の使用、口腔衛生習慣、喫煙、ホルモンバランスの変化、発酵性糖質の摂取、矯正装置の装着、社会環境なども口腔マイクロバイオームの構成に影響を与えることがわかっています。 今後、細菌叢が形成される乳幼児期の研究で、健康的な細菌バランスに誘導できる方法がわかれば、歯だけでなく全身の健康維持に貢献できるようになると期待されます。(文献3より引用改変)June 2022 vol.465)疫寛容形成切開)●分娩時の抗生物質の使用45胎児期・周産期・出生後に口腔細菌叢に影響をもたらす因子出生後胎児期周産期母親の細菌叢と似た細菌叢が形成される出産形態や歯の萌出なども、口腔細菌叢の構成に影響を与える

元のページ  ../index.html#3

このブックを見る