Journal of Aligner Orthodontics 日本版 2021年No.1
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佐本 博[東京アール矯正歯科]佐本 博 Hiroshi Samoto, D.D.S, Ph.D. 東京アール矯正歯科 〒107-0062 東京都港区南青山1丁目15-2 越山ビル2階 連絡先 E-Mail: aoyamar@me.comJournal of Aligner Orthodontics | 2021 vol.1 issue 171佐本 博キーワード 骨格性Ⅲ級、骨格性下顎前突症、アライナー矯正治療、カモフラージュ治療、Invisalignアライナー登場以降の矯正歯科治療 「矯正装置によって診断や治療計画が変わるべきではない」と考える方がいるとすると、それは間違いである。矯正歯科学は矯正装置の進化とともに発展してきた学問であり、新しい装置を使用することで新たな発見と可能性が生まれる。同様に、クリアアライナーの登場はわれわれが長年慣れ親しんだ診断や治療計画を再考する良いきっかけとなった。アライナー矯正治療によって診断や治療計画の考え方が大きく変わったが、それは従来のワイヤー矯正治療しかなかった時代には敬遠しがちであった大臼歯の遠心移動や側方拡大が簡便になったことで、小臼歯を抜歯することなくスペースを確保しやすくなったからである1。大臼歯の遠心移動を比較的簡単に治療計画に組み込むことができるというイノベーションは、Invisalign(Align Technology社、米国・カリフォルニア州)を用いたアライナー矯正治療を始めた2007年当時の著者を興奮させた。フルクラスⅡ級の臼歯関係が、従来の複雑な遠心移動装置を使用しなくてもフルクラスⅠ級へと改善したときの感動は忘れられない。 とはいってもどのケースにおいても大臼歯の遠心移動が成功するわけではなく、症例ごとに大臼歯遠心移動の実現性を検証する必要があることもわかってきた2。また大臼歯の遠心移動が可能であっても、側貌の改善、治療期間、予測実現性などを考慮して小臼歯抜歯の方が望ましいと判断することも少なくない。つまり、大臼歯遠心移動の治療選択肢が増えたことは、診断をより複雑化させたともいえる。アライナー矯正治療の特性を理解せずにワイヤー矯正治療のみの感覚で診断を行っていると、治療途中でアライナーではリカバリ不可能な深刻な状況に陥る恐れもある。治療難度の高い症例においても予測実現性の高い治療計画を導き出していくためには、アライナーによる歯の移動の長所・短所を理解し、さまざまな可能性を治療シミュレーションソフトを用いて検証しなければならない。日本版オリジナルページ 症例報告はじめに骨格性Ⅲ級症例に対する非外科的アプローチ

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