nico 2018年4月
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歯、矯正治療で抜いた歯などです。―細菌の問題ですか。それで、抜かれた歯の細胞は、どうやって培養されるのですか。中原 歯髄なら歯を半分に割って取り出します。歯根膜や歯乳頭、歯小嚢の細胞なら、付着している組織を採取して使います。取り出した組織片を培養シャーレやフラスコに入れ、培養液に浸すと、組織片のなかの幹細胞が増殖しシャーレいっぱいに広がっていくんです。ほら、こちらのシャーレを見てください。―どれどれ……んん? 何もないように見えますが?中原 細胞は肉眼で見ることはできません。顕微鏡でどうぞ。―おお、これは……!中原 紡ぼう錘すい形けいの歯髄細胞が、元気に増えているでしょう? つい最近も、なんと74歳の男性の歯から歯髄細胞が取れました。―ここまで増えるのにどれくらいの時間がかかるのですか。中原 組織片を入れて数日で幹細胞が増えてくることもあれば、何週間もかけてじわじわと増えたり、まったく増えないこともあります。平均して、だいたい1~2ヵ月かかりますね。基本的には、若い細胞のほうが増えやすい傾向があります。中原 先ほどの話に出てきた幹細胞の「増える力」というのはこのことで、歯髄組織から幹細胞が増えるスピードは、じつは他の幹細胞と比べてとても速いんです。―他の幹細胞といいますと?中原 抜去歯以外に組織幹細胞が豊富に存在するのが、骨髄、脂肪、臍さい帯たい(へその緒)などです。とくに骨髄は、初めてヒトで組織幹細胞が存在するのが発見された組織(1999年)で、医科では組織幹細胞といえば骨髄由来のものがスタンダードです。―なるほど。中原 下は、骨髄由来の幹細胞と、抜去歯由来の幹細胞で、増えた細胞の数を比べたグラフです。歯の根が完成する前の幼若な組織(歯小嚢や歯乳頭)から得られるものほど、増殖能(増える力)が高いです。―もっとも低い歯髄でも骨髄の3倍以上ですね……!中原 骨髄から細胞を取り出して培養する場合、骨髄細胞を取るために全身麻酔で脊髄注射(骨こつ髄ずい穿せん刺し)をしなくてはなりません。抜いた歯を利用するということは、患者さんのからだを余計に傷つける必要がないということで、そういう意味でも抜去歯の利用は患者さんにメリットがあります。―医療廃棄物として捨てられていたものを使うわけですものね。それで、どんな細胞に変化するのですか。骨髄由来の細胞より増える!歯を半分に割り、なかにある歯の神経組織を取り出してシャーレへ。培養液を入れ替えながら1~2ヵ月観察を続ける。歯髄細胞が歯髄の組織片から遊走してくる。歯髄細胞の培養の流れ抜去歯由来の幹細胞の増殖能3006810241220細胞数(×104個)10抜去歯由来の幹細胞は、骨髄由来の幹細胞より増殖能がはるかに高い。歯小嚢歯乳頭歯髄骨髄日歯根膜培養成功!歯髄歯髄の組織片歯髄細胞432018年4月号

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