nico 2018年9月号
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―「化粧療法」って耳慣れない言葉ですが、どんな療法でしょう?池山 弊社の「化粧療法」は、高齢者にスキンケアやメイク、マッサージなどの参加型プログラムをご提供し、ご自分でも毎日スキンケアやお化粧を続けていただいて健康寿命を延ばそうという取り組みなんですよ。―えっ、つまりお化粧で要介護の高齢者を減らそうと?池山 そうです。お化粧にはかねてからこころがウキウキする効果が指摘され、心理学分野で研究されてきました。私は学生時代から、高齢者のお化粧による「心理以外の効果」に興味がありまして……。―心理以外の効果??池山 ええ。介護施設の入所者さんがすっかりやめていたお化粧をまたはじめると、笑顔が増えるばかりか、自立度が向上するというケースにたびたび出合ったものですから、「たんなる心理的効果だけじゃない。それ以上の何かが起きているんじゃないか」と思いました。私は医学・介護の両方が専門なので、介護現場で出合ったお化粧の効果をもっと科学的に解明すれば、医療や介護の分野で広く役立てることができるのではないかと研究をはじめました。そういった学問を老年化粧学といいます。―それで資生堂に?池山 はい。弊社ではすでに1970年代から施設や病院で社員がお化粧ボランティアを行い、その心理面への効果が学会で発表されるなど、高く評価されていました。最初私は、そのボランティア活動に同行してデータを取っていたんです。 この活動は現在、専門スタッフのビューティーセラピストを全国に配置し、ライフクオリティー事業として、有償サービスで展開されています。ボランティア活動ですと、みな他の仕事をしながらなので、ご要望の日時に出向けるとは限らなかったものですから。―高まるニーズに応えたのですね。池山 そうですね。ただいくらニーズがあっても、「化粧療法」を積極的に介護の現場で役立てていくには、療法のエビデンス(根拠)が必要です。自社のスタッフだけでなく、弊社が認定した資生堂化粧セラピストも自信をもってセミナーをご提供し、施設のかたがたや高齢者のご家族にも納得し喜んでいただく。そのためには「科学的根拠」が必須ですからね。―そこで老年化粧学の出番ですね。池山 実際に研究していくと、化粧療法は脳、からだ、お口にもよい影響を与えていました。これらの相乗効果が、次のページの上のグラフのような、介護スタッフを驚かせるさまざまな変化を生んでいたんです。化粧療法ってなんですか?「老年化粧学」で効果を裏付け資生堂ビューティーセラピストによる化粧療法セミナー「いきいき美容教室」。セラピストとともに受講者自らがスキンケア、メイク、マッサージを行う。ふだん車椅子の背にもたれている入所者さんが、セミナーのあいだずっとからだを乗り出して鏡を覗き込み、介護スタッフを驚かせる場面も。40

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