nico 2019年1月号
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 ここはお口の中の歯ぐきの上。ミクロの世界では、免疫の軍隊が細菌に対する防衛ラインを築いている。* * * 私はマクロファージ少尉、歯し周しゅう防ぼう衛えい軍ぐんの小隊長だ。歯ぐきはボディ(からだ)と外敵である細菌がせめぎ合う最前線。ボディの指令を受けたわれわれ免疫の兵士が歯ぐきに常駐し、国境線の守備にあたっている。 歯ぐきの丘には地平の果てまで続く無数の監視塔が築かれ、細菌たち わが小隊は「細菌呑のみくだし隊」。通称「ゴックン隊」と呼ばれ、細菌たちをひと飲みにして倒す強力な部隊だ。ブラッシングストームをかいくぐって国境線を突破してきた細菌がいても大丈夫。私の指揮するゴックン隊が素早く排除する。歯ぐきの防衛は完璧だった。そう、半年前にボディが油断をはじめるまでは――。 半年前、ボディの仕事が急に忙しくなった。そのため、いままで何回も行われていたブラッシングストームの回数が減り、やがて攻撃時間も短くなった。そして先月からだ。敵の細菌集団がにわかに勢いづいてきたのは。 防衛ラインを突破してくる敵の数が日に日に増えている。明らかにやつらの武装が強化され、一糸乱れぬ統制の取れた動きをするようになってきた。異変に気づいたボディはブラッシングストームを元のように何回も行うのだが、基地を壊しきれない。「ちくしょう、いったい何だってんだ!?」。万全だった歯ぐきの防衛体制に陰りが見えはじめた。ににらみを利かせている。監視塔からは、対岸の歯の表面につくられた敵の基地が一望できる。といっても、監視塔と敵の基地とは、ほんのわずかな距離しか離れていないのだから当たり前だが。 細菌たちは昼夜休むことなくこちらににじり寄ってくる。放っておくとひと晩で歯ぐきの丘への上陸を許してしまう。だからボディは毎日ブラッシングストーム攻撃を行い、敵の前線基地を破壊している。しかし、いくら破壊しても翌日には元に戻っている。しぶとい奴らだ。 歯と歯ぐきのあいだにある隙間(歯し肉にく溝こう)には、マクロファージなどの免疫細胞が巡回しています。彼らは、細菌が歯ぐきからからだの内部へ入り込むのを食い止める役目を担っています。 しかし、歯の表面に付着しているバイオフィルム(プラーク=細菌の塊)は、巨大で粘着質なため、免疫細胞が排除することはできません。ですから、毎日のブラッシング(歯みがき)による物理的な破壊が必要となります。 ブラッシングが十分でないと、みがき残したバイオフィルムは分厚く固くなり、病原性が高まります。すると、歯ぐきに侵入を試みる細菌の数が増え、免疫の防衛ラインを徐々に突破するようになります。そして歯肉溝は深くなり、歯周ポケットになっていくのです。歯ぐきは細菌との戦いの最前線。歯周戦線異状あり!解 説歯ぐき歯ぐき歯し槽そう骨こつ歯周ポケット歯バイオフィルムバイオフィルム細菌群マクロファージ40

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