nico 2019年8月号
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――痛くなってから歯医者さんに駆け込むってかた、多いですよね。熊谷 日本では皆保険制度があるから、ポケットマネーで歯科治療を受けられますからね。――でも、治療したあとが口のなかに増えるのは、やっぱり誰だってうれしくないと思うんです。熊谷 そうですよね。それに、一度削った歯は、どんなにいい治療を受けたとしても、健康な歯よりは格段に弱くなります。しかも、治療に使った材料だって経年変化する。将来歯が壊れて抜歯になるリスクも増えるんですよ。――わあ、たいへん!熊谷 それと、もうひとつ問題があると思います。ふだんから歯医者に通って予防せず、「痛くなったときだけ歯医者に行って治療を受ける」を繰り返していると、歯だけじゃなく、社会も壊れちゃうんじゃないかという危惧もありますよね。――へ? 社会もですか?熊谷 そう。いま日本では、社会保障費の増大が問題になっていますよね。いまが120兆円、2025年には140兆円という試算です。超高齢社会で医療が必要な人が激増した一方、若者が減って皆保険制度を支える人が激減。国の借金はうなぎのぼりです。このまま未来を食いつぶしていては、医療制度が崩壊してしまう。――……想像すると怖いですね。熊谷 ええ。こういう現実から目をそらしていられる時期は、もはや過ぎていると思うんです。予防によって治療する歯が減れば、口腔内が崩壊するリスクも、医療制度が崩壊するリスクも将来減らせるでしょう?――なるほど。熊谷 病気のなかには、予防したくても難しいものもあると思います。だけど、むし歯と歯周病は違う。どちらも口のなかにいる細菌(バイオフィルム)が引き起こすんですから、それを減らして防げばいい。むし歯学でも、歯周病学でも、予防法がすでに確立され、その成果が実証されています。歯科ほど「予防」を実践しやすい医療分野はありません。――ふーむ。そのためには何が必要なんでしょう?熊谷 まず、蛇口を閉めることです。――蛇口?熊谷 「痛いときだけ歯科に行く」というのは、痛みを止めてふだん通りに生活できるよう対症療法を受けるのが目的ですよね。――たしかに、そうですね。熊谷 本当はむし歯ができるほど口のなかにむし歯菌がたくさんいるのが原因なのに、その原因を解決せずにとりあえず詰め物をする。すると痛みは消える。痛くなくなれば歯医者には来てくださらないから、歯科のプロフェッショナルクリーニングを受けないし、むし歯ができたときと同じ自己流の歯みがきを続けたら、口のなかはむし歯菌だらけのまま。治療した歯は弱くなるからのっけから財政破綻のお話にむし歯菌と歯周病菌の蛇口を閉めるバイオフィルム(プラーク、歯垢)を顕微鏡で見ると細菌がいっぱい。バイオフィルム1mgに、じつは1億もの細菌がいます!38

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