nico2020年8月号
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視されているように思いますが……。福本 そうですよね。授乳中のお母さんたちにご協力いただいて、母乳のビタミンD量を実際に調べたデータがあるのですが(「日本人母乳のビタミンD含量の実態」2017年4月、日本栄養・食糧学会大会講演要旨より)、それによると、100ccの母乳に640μg(マイクログラム)が必要(基準値)なんですが、いちばん多かったお母さんで80μg、少ないかたはわずか8μgしか含まれていなかったと。えっ!福本 いちばん多くて基準値の8分の1。少ない人はなんと80分の1。そんなに少ないとは……。なぜそんなことが?福本 ひとつには、食生活の変化だと思います。ビタミンDは魚やキノコに多く含まれていますが、とくに若いかたに、魚を食べないかたが増えているのではないでしょうか。たしかにそう思いますけど、それにしても欠乏の程度が極端ではありませんか?福本 おっしゃるとおりです。歯が成長するには、カルシウムやリン、タンパク質なども必要で、みな食物から摂取しているものです。食生活がいくら変化しているからといって、これらの栄養素については、必要量の数十分の1といった重度の欠乏は、妊産婦さんはもちろん、一般的にもまず見られません。とすると、ビタミンDの極端な欠乏には、食べ物以外の要因も?福本 そうなんです。私たちは、お母さんたちの「紫外線対策が大きく影響しているのではないか」とにらんでいるんですよ。福本 というのもビタミンDは、食べ物からとる以外に、皮膚が紫外線に当たることで体内でも合成されます。効率よく働く質のよいビタミンDを得ることができるんです。 しかし最近は美白ブームで、顔だけでなく、手足にも日焼け止めを塗るかたが増えました。ことに若い女性はとても熱心ですよね。つまり、食生活の変化と徹底した紫外線対策が、エナメル質形成不全の原因!福本 はい、ただし現段階では仮説ですが。仮説?福本 私たちはこの問題を研究中ですが、実際に検証できるまでには、最低でも6~7年はかかります。まず妊婦さんの栄養状態を調べ、母乳を調べ、生まれてきたお子さんの永久歯が生えるのを待って追跡調査せねばなりませんから。 でも、現在進行形のエナメル質形成不全の増加に歯止めをかけるには、結果を待っているのでは遅すぎる。そう考えて、あえて現段階で警鐘を鳴らしているのです。過度な日焼け対策で、女性の骨粗しょう症が増えているという番組なら見たことがありますが……。福本 もちろん、お母さんたちの健康も心配です。若いと表面化しにくいですが、将来骨に問題が起きる可能性があります。ただ、骨は代謝しますのでリカバリーが可能です。生活習慣を改善すれば骨質を回復させることができますから。福本 しかし、歯は代謝をしないので、一生その歯を使っていくしかありません。歯がもろい場合、詰めたり被せるといった対症療法しかできない。だからこそ「生まれてくるお子さんのために、ビタミンD欠乏に注意してください!」となんとしても妊産婦さんにお伝えしたいのです。啓発を急ぐ必要がありますね。福本 もし仮説がはずれても、「お子さんとお母さんたちの健康に寄与できたね」と。どっちにしろ役に立ちますしね(笑)。たしかに! 福本 紫外線対策は、「皮膚がんを防ぐために重要だ」とも言われていますが、じつは私たち黄色人種では、紫外線が皮膚がんのリスクになるという明らかなエビデンスはないんです。心配せずに日光を浴びていただきたいです。紫外線対策でビタミンDが欠乏!?歯は一度生えたら一生ものだから。38

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