nico 2022年6月号
7/9

私の子どもの頃は、むし歯の詰め物というと黒い金属でした。歯医者さんから帰って鏡を見るとガックリしたものですが、今の詰め物は白くて目立たず、治療の痛みも少ないし、隔世の感がありますね。田上 そう言っていただけると、とても嬉しいです。先生はこうした治療に使われている「接着技術」の研究に長年携わってこられたそうですね?田上 そうです。いま思えば、画期的な新開発が続いた1970年代から1990年代の歯科材料研究のただなかに身を置けたことは、本当に幸運でした。歯によくくっついて長持ちする「夢の材料」を開発して広めることは、たいへんやりがいのある仕事でしたからね。夢の材料、といいますと?田上 たとえばむし歯を詰めるとき、アロンアルファみたいに歯によくくっつく接着材があれば、詰め物を必要なところへ丈夫にくっつけることができますよね。そうですね。田上 じゃあ、そういう接着材がない場合、詰め物はどうなります?すぐに取れちゃいますよね?田上 そうです。でもむし歯の穴に詰め物をしないと痛いし、ご飯粒が入っては困ります。だったらどうするか。穴を削って広げ、詰め物が取れにくい形に整えて材料を充填したのです。いい接着材がなかった時代は、アマルガムという金属を練ったやわらかい材料を、こうやって穴に詰めていました(下の説明図参照)。ああ、それです!つので、本当に嫌でした。田上 歯を多く削ると、そのぶん歯は弱くなってしまいます。でも、当時はその材料しかなかったから、それがいちばんの治療法でした。現在は、歯によくくっつき長持ちする接着材と白い詰め物レジン量ですむので、歯の健康維持に有利になりました。 笑うと目立コンポジットができて、最低限の削除歯科の長年の夢でした 「歯にくっつく接着材」はアマルガムを使った以前の治療歯によくくっつく接着材がなかった時代は、詰め物が取れてこないような形に歯を削って穴を広げてから詰め物を充填しなければなりませんでした。たくさん削るので歯の耐久性に不利!神経の近くまで削るので治療時に痛みやすい!アマルガム神経エナメル質むし歯象牙質40正解は、❶の日本。唾液ジャブジャブの口のなかでしっかりくっつく「夢の材料」の開発により、世界の歯科治療が進化しました。

元のページ  ../index.html#7

このブックを見る