歯科医師のための睡眠医学
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169必要」である.侵害受容性疼痛 侵害受容性疼痛はもっとも一般的に理解された種類の疼痛である.ほとんどの生理学の教科書で侵害受容性疼痛を「疼痛を感知する受容器(侵害受容器)が活性化された結果」であることとしてまず初めに強調している1.侵害受容性疼痛は一時的なもので本用語が意味しているとおり,「急性で刺激が除去されるか減退するとすぐに溶暗する疼痛」と定義されている. 侵害受容器は一次求心神経線維のなかでも基本的な受容器であり,顎顔面領域すべての種類の組織を神経支配している.末梢終末においては,酸感知型イオンチャンネル,一時的受容器電位性チャネルの集合体,そしてP2X3受容器を含めた複合的変換受容器やイオンチャンネルが認識されてきた.P2X3受容器はユニークで,温度刺激や機械刺激,化学刺激など潜在的に皮膚のダメージにつながる強度の刺激を感知し,反応する2.それゆえこれらの侵害受容器は実質上有効な警告システムとして働く. 筋,関節,腱,靭帯,口腔粘膜,歯髄,歯周組織内の侵害受容器は種々歯科治療中で不随意に活性化される(治療上の疼痛).たとえば矯正装置装着後の疼痛は,侵害受容器を十分に活性化しうる力を歯周靭帯へ及ぼす.炎症性疼痛 外傷や外科処置による組織損傷は,典型的な炎症症状(熱,疼痛,発赤,トルゴール[皮膚の緊張],機能[制限])のなかの「疼痛」ともっとも関連がある1.顔面領域における放射線治療後の口腔粘膜炎,感染による筋炎,歯髄炎,そして顎関節内における滑膜炎などが炎症の基本的特徴例として挙げられる. 分子レベルにおける侵害受容機構の神経生物学的変化の理解は革新的に前進してきた.1つの重要な概念は「侵害受容器は末梢における刺激なしで自発的行動を起こし,自発痛へ導く」ことである.もう1つの特徴は,「侵害受容器の活動閾値が低下し,反応が延長し,増強したときの感作」である2.休止していた受容器は覚醒され,さらに疼痛へ寄与する.侵害受容器における受容器とイオンチャネルの数や活動度に機能的な変遷が起こることもまた事実として取り上げられている.たとえば神経栄養因子,ブラジキニン,プロスタグランジンなど受容器が膜興奮性を上げながら活性化されるなどである.三叉神経知覚核複合体内における二次ニューロンは侵害受容器からの活動電位のやり取りの増加に対して反応し,中枢神経系は感作する1.N-メチルDアスパラギン酸受容器のリン酸化反応や,ニューロキニンと神経栄養受容器を含む複雑な生物学的な反応が発生する.炎症性疼痛と関連のある細胞内神経インパルスについての理解は顕著に進んでいる.これらの神経インパルスは神経伝達物質と神経係数の遺伝子発現変化も含まれている,と理解されている. 末梢や中枢の感作は数分以内に発達するにもかかわらず,これらの過程は普通,炎症性疼痛の条件下では完全に可逆性である.そこには歯肉炎や歯周炎のようなまれに疼痛と関連を持つ,少し慢性化した炎症状態が存在する.対照的に顎関節にも障害を与えるかもしれない慢性関節リウマチはしばしば,長期にわたって残存したり,徐々に衰退したりする疼痛と関連がある.ニューロパシー性疼痛 神経機構の傷害により起こるニューロパシー性疼痛は,たとえば外科治療(例:智歯抜歯,外科矯正,インプラント埋入術)や疾患(例:三叉神経痛,ヘルペス性神経痛,糖尿病性ニューロパシー,そして歯髄炎ですら)による末梢神経線維の損傷により起こりうる1.ニューロパシー性疼痛は,たとえば脳卒中,多発性硬化症,脊髄損傷など中枢の体性感覚機構の傷害に追随して発展する. これら外傷の結果が自発痛や無痛刺激(たとえば単純な触刺激を不快感や疼痛として認識される:アロディニア)に加えて有痛刺激(痛覚過敏症)に対する過敏症である.一次求心神経線維は,末梢神経損傷部位近辺における異所性神経活動として自発的に放出し始めることができる.イオンチャンネルの圧出や分布における表現型の変化や口腔顔面痛機構

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