歯周抗菌療法 ―感染症医的な視点から―
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24第部 感染症学病原菌なのかファジーな存在となっているのが歯周病菌である.そのなかでも病原菌としての振る舞いの強い細菌(red complexやA.a.菌)をとくに抗菌療法のターゲットにしているのが現状である.4.日和見感染(oppotunistic in-fection)という考え方 常在菌が暴れだすのが内因性感染と説明したが,そのなかの1つの形に日和見感染がある.宿主の抵抗力が低下したときに,通常であれば暴れるようなことのない細菌が暴れだすというシチュエーションである(図6).宿主の抵抗力を落とすものとしては一般的に加齢,栄養不足,ストレス,遺伝的欠陥,医療行為などが挙げられるが,歯周病では糖尿病やHIV感染,免疫抑制剤,ストレス,喫煙などが注目されている.宿主の抵抗力が落ちていないにもかかわらず常在菌が暴れだす場合は日和見感染ではない内因性感染となるが,この場合,日和見感染を内因性感染に含めて考えたり,別々に考えることができる(個人的には内因性感染に日和見感染を包含させるほうが頭の整理がしやすくて助かるが…). さて,歯周病における感染は常在菌による日和見感染だと言い切る人の意見に筆者は与しない.局所免疫の低下まで日和見感染の原因に含ませるという条件提示があれば別であるが,一部の病態の歯周病を除いて,多くの歯周病は全身的に健康な体の患者さんに発症している.日和見感染を拡大解釈しているとしか考えられない.5.スーパーインフェクション (super infection)とは? ライノウイルスなどのウイルスが原因で鼻炎や副鼻腔炎を起こした後に細菌性の鼻炎や副鼻腔炎になることがある.これはウイルスにより鼻腔や副鼻腔の上皮が破壊,損傷を受けた結果,常在菌が内因性感染を起こしたからである.このように,ある微生物による感染が原因で局所環境が変化することで,別の微生物の感染を誘発することをスーパーインフェクションという(図7).ただし,このスーパーインフェクション,いろいろな意味で使われていて混乱している.ウイルス学では2種類のウイルスが1つの細胞に感染する,いわゆる重複感染のことをスーパーインフェクションと呼ぶこともあれば,抗菌療法などで感受性のある細菌が減少し,その結果別の細菌が勢力をもって感染が成立することをスーパーインフェクションということもある.難治性の常在菌抵抗力局所環境変化した局所環境ウイルス細菌スーパーインフェクションスーパーインフェクション図6 宿主の抵抗力が落ちたために常在菌による感染が起こることがある.歯周病でどれだけ起こっているかは不明.図7 ウイルスなどの先行感染により局所環境が変化し,そこに細菌が感染しやすくなることがある.歯周病でも可能性のあるシナリオである.日和見感染スーパーインフェクション

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