歯周抗菌療法 ―感染症医的な視点から―
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選択毒性コラム de 感染症⑤LysAlaAlaPBP43第1章 ペニシリン 抗菌薬は細菌に対して特異的に作用するものである.宿主の細胞には毒性がなく,細菌にだけ毒性をもつ抗菌薬には“選択毒性”があるわけだ.このようなコンセプトでこの世に最初に出てきた抗菌薬はサルファ剤であった.活性型の葉酸の合成を妨げることで細菌のDNA合成のじゃまをするのだが,この経路は細菌特有のものなので人間に影響を与えない.その後作り出されたβラクタム薬はPBPをじゃましてペプチドグリカンという細菌特有の細胞壁の合成を阻害する.マクロライドやテトラサイクリン,クロラムフェニコール,アミノグリコシドは細菌特有のリボゾーム上でタンパク合成を阻害する.キノロンは細菌特有のDNAジャイレースの阻害だ.こういった選択毒性によりわれわれは細菌と“共死に”することなく,細菌だけを殺すことができる. 人類に福音をもたらした抗菌薬であったが,思いもよらなかった問題がでてきた.それが“耐性菌の出現”である.細菌は条件によっては20分に1回くらいの猛スピードで分裂するので,突然変異も起こりやすい.耐性菌が出現すると,抗菌薬を投与しても効かなくなってしまうだけでなく,感受性菌が減少して耐性菌が増えてくる(これを“選択圧”がかかると表現する).つまり薬を使えば使うほど耐性菌の比率が上がっていく.しかもプラスミドなどを介して耐性遺伝子が他の菌の手にも渡ってしまう. これでは細菌だけを選択的にやっつけるという本来のコンセプトから,感受性菌だけをやっつけて耐性菌が増えてくるというコンセプトに乗り移られたようだ(図1).ワクチン後進国で,耐性菌大国といわれるわが国では,もはや選択毒性という言葉は“耐性菌が増えていくこと”の裏返しの言葉になってしまった.日本だけが“選択的”に毒されたのだろうか?選択選択図1 選択の変化. 細菌と宿主細胞があったときに細菌を選択する,というのが本来の選択毒性という意味であったが,今では感受性菌を選択して耐性菌が生き残るというような状況になってしまった.

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