歯周抗菌療法 ―感染症医的な視点から―
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59第3章 キノロンとアミノグリコシド命なので,結局,時間依存性抗菌薬では投与する回数が増えることになる.つまりある程度の量を“こまめに”が基本ということだ(図1). それに対してキノロンやアミノグリコシドになると,時間ではなく濃度でどれだけMICを超えるかが大切になる.これを濃度依存性という.この場合は最高到達濃度(Cmax)やMICを超えている濃度(area under the curve:AUC)をモニターすることになる.CmaxやAUCを上げようと思えば1回に投与する抗菌薬の量を増やさなければならない.つまり濃度依存性抗菌薬の投与は“一度にたくさん”なのである(図2).ただし1回の投与量を上げると抗菌効果と一緒に副作用も強くでやすくなるのが気がかりなところだ. ところでこのキノロンの処方が米国と日本で異なっている.たとえばレボフロキサシンの日本での保険適応の処方は100~200mgを1日3回,あるいは200mgを1日2回となっている(500mg錠はさすがに割って使えとは書いていないが…).米国ではどうかというと500~750mgを1日1回である.総量が日本で少ないのは日本人の平均体重が少ないからと勝手に納得させておくとしても,回数が違うのは納得できない.薬理学的に正しいのは米国である.逆に日本ではペニシリン系の投与回数が(時間依存性なのに)やたら少なかったり,総量が少なかったりする.保険適応の処方に盲目的に従っていると,肝心の患者さんが治らない可能性があるのだ.日本は世界に誇れる保険システムと言われて久しいが,抗菌薬に関しては誇れない状況なのかもしれない.表2 キノロンに対する耐性.●❶ トポイソメラーゼをエンコードする遺伝子の変異●❷排出ポンプの発現は新しいキノロンほど影響が少ないといわれている.つまり古いキノロン(オフロキサシンやシプロフロキサシンなど)では1回の変異で効かなくなってしまうが,新しいキノロンでは複数の変異が重ならないと耐性獲得できないようだ.また,せっかく細菌の内に入り込んだキノロンを外に排出してしまう排出ポンプ(effl ux pump)が過剰に発現するようになって耐性をもつこともある(表2).MRSA,緑膿菌,淋菌などで耐性が広がってきている.たとえば,カリフォルニアやハワイではキノロン耐性の淋菌が問題となっている.地域ごとのlocal factorの把握が大切である.3.キノロンのPK/PD キノロンはβラクタム薬と違って濃度依存性抗菌薬だ.ちなみにβラクタム薬は時間依存性.濃度依存性抗菌薬は濃度が高いほど効果も上がるということで,投与法は回数を少なくして1回投与量を多くすることになる(図4).とくに新しいキノロン(レボフロキサシン,ガチフロキサシンなど)ほどその傾向が強い.投与回数が少ないと濃度が下がった後が心配だが,キノロンはPAEといって,抗菌薬と細菌が短時間接した後に,細菌抑制効果が持続する現象がある(図4).これによって案外長時間細菌に影響をしているのである. キノロンはPK的に優等生だ.まず腸管での吸収が抜群.経口投与と点滴とほとんど同じくらい血中レベルが上がる.これは驚異的だ.ただ腸管での吸収が悪くなってしまうことがある.それはマグミットのような制酸剤,鉄や亜鉛含有のマルチビタミン

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