歯周抗菌療法 ―感染症医的な視点から―
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93第2章 歯周病菌の抗菌薬感受性ケット内が高くなることが知られ,データにばらつきはあるものの,これも優良児である.エリスロマイシンやクリンダマイシンは十分なGCF濃度を得にくいので,MIC値の小さい感受性菌にしか効かないだろう.そのほかの抗菌薬はその中間程度の濃度である. さて,ここでアモキシシリンとシプロフロキサシンを例にとって考えてみよう.第Ⅱ部第1章でも触れたようにアモキシシリンは時間依存性の抗菌薬である.つまりどれだけたくさんの時間,抗菌薬が細菌に作用しているかということが重要である(%Time>MIC).MICを超えている時間がどれだけ長いかがポイントで,そのためには投与量よりも投与回数を増やす必要がある.しかもグラム陽性菌にはpost-antibiotic eff ect:PAEが期待できるので%Time>MICが40~50%で最大殺菌作用を発揮するが,グラム陰性菌になるとPAEが期待できないため,最大殺菌作用を期待するには70%以上必要といわれている(増殖抑制作用であれば30~40%).表3はGCF中の最大量であり,刻々と濃度は変化する.アモキシシリンがポケット内で内服後GCF中でどのような濃度変化を起こすのかというデータに筆者はまだ出会っていない.そのデータと各歯周病菌のMICデータがあれば,投与量や投与回数がシミュのである.日本のMICデータでは細菌に直接抗菌薬を作用させて,どれくらい効くかを見ているのに対して,フロリダ大学のデータは抗菌薬を内服したときにポケット内のそれらの細菌に効くかどうかを見ているわけである.では歯周抗菌療法におけるPK概念はどのようなものかを見てみよう.CampylobacterPrevotellaF nucleatumT denticolaT forsythiaP gingivalisE corrodensA actinoCapnocytophaga4.歯周病菌に対する抗菌薬のPKは? 内服した抗菌薬は血流で運ばれて歯肉溝滲出液(gingival crevicular fl uid:GCF)とともにポケット内に湧き出てくる.そこでポケット内の細菌をターゲットとする歯周抗菌療法では,GCF中の抗菌薬濃度がPKを考えるうえで重要になる.なぜならたとえ感受性のある細菌であっても,GCF中にわずかしか滲出してこないのであれば,十分なポケット内濃度が上がらず,細菌をやっつけることができないからである.では各抗菌薬は内服後どれくらいGCF中に出てくるのだろうか? 表3は前述と同じフロリダ大学のレビュー論文からの引用である7.メトロニダゾールは炎症の有無に関係なくどこの組織にも移行性の優れたPKの優良児であるが,GCF中にも非常に高濃度で滲出している.またテトラサイクリンは血中濃度よりもポCampylobacterPrevotellaF. nucleatumT. forsythiaP. gingivalisE. corrodensA. actinoCapnocytophagaCampylobacterPrevotellaF. nucleatumP. gingivalisE. corrodensA. actinoCapnocytophagaCampylobacterPrevotellaF. nucleatumT. forsythiaP. gingivalisE. corrodensA. actinoCapnocytophagaシプロフロキサシン(シプロキサン®)アジスロマイシン(ジスロマック®)クラリスロマイシン(クラリス®)*緑膿菌,大腸菌に対する MIC 0.1μg/mlMIC>1μg/mlMIC<1μg/mlとくに感受性高い菌株によって感受性に差*緑膿菌,大腸菌に対する MIC>25μg/mlMIC>1μg/mlMIC<1μg/ml菌株によって感受性に差*緑膿菌,大腸菌に対する MIC>12.5μg/mlMIC>1μg/mlMIC<1μg/ml菌株によって感受性に差図5 文献8,9の両方で扱われている抗菌薬に関するMICデータを無理やりサークル図にまとめた.感染症医のイメージ(前章図5)とも,本章図4とも異なる.日本のデータに基づく抗菌薬サークル図

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