歯周抗菌療法 ―感染症医的な視点から―
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90第部 歯周抗菌療法CampylobacterPrevotellaF nucleatumT denticolaT forsythiaP gingivalisE corrodensA actinoCapnocytophaga2.プランクトニックとバイオフィルム ポケット内細菌の最大の特徴は多種類の細菌がバイオフィルム(biofi lm)という共同体を形成していることである3.それにより宿主の感染防御からすり抜けたり,抗菌薬の攻撃被害を最小限に抑えている.細菌が一人暮らしで唾液や歯肉溝滲出液中で浮かんでいるような状況をプランクトニック(plank-tonic)というが,この状態に置かれた細菌とバイオフィルムを形成した細菌では,たとえ同じ抗菌薬を作用させてもまったく効果が異なる4.組み合わせによってデータはまちまちであるが,極端な場合,1,000倍以上バイオフィルム形成細菌のほうが抗菌薬に抵抗を示すことがわかっている(表1). 現時点ではこのバイオフィルムを形成した細菌に対して有効に予知性をもって作用できる臨床的薬剤はなく,歯周病においても細菌バイオフィルムを相手にするのは諦めたほうがよい.そこでプランクトニック細菌をターゲットにした戦略を練ることとしよう.ということは,抗菌療法では“事前にデブライドメントによって可及的にバイオフィルムを破壊しておかなければならない”ということになる.これは米国歯周病学会5でも,ヨーロピアンワークショップ6でも認められていることであり,歯周病における抗菌療法は単独,つまりモノセラピー(monotherapy)としての効果は期待薄である.そこで,これから述べる抗菌療法は,事前のデブライドメントが前提であることに留意していただきたい.CampylobacterPrevotellaF nucleatumT denticolaT forsythiaP gingivalisE corrodensA actinoCapnocytophaga3.歯周病菌に対する抗菌薬のPDは? 前章で説明したピラミッドの展開図のなかで,歯周病菌というレッテルを貼られている細菌群はグラアモキシシリンの抗菌スペクトラムサークル図ポケット内細菌のサークル図(ピラミッドの展開図)レジオネラ属カンピロバクター属梅毒トレポネーマリケッチャ属クラミジア属マイコプラズマ属炭疽菌結核菌ジフテリア菌黄色ブドウ球菌(MSSA)レンサ球菌属(肺炎球菌除く)肺炎球菌エンテロコッカス・フェカーリス腸球菌属(フェカーリス除く)淋菌髄膜炎菌モラクセラ・カタラーリス大腸菌赤痢菌サルモネラ属シトロバクター属クレブシエラ属エンテロバクター属セラチア属プロテウス・ミラビリスプロテウス・ブルガリスモルガネラ属プロビデンシア属インフルエンザ菌緑膿菌ステノトロフォモナス・マルトフィリアアシネトバクター属バクテロイデス属ペプトストレプトコッカス属アクネ菌クロストリジウム・ディフィシル図1 主に好気性グラム陽性菌を守備範囲にしている.中耳炎や副鼻腔炎ではインフルエンザ菌という好気性グラム陰性桿菌も起因菌だが,Hibワクチンの摂取率の高い国では考慮する必要はない(戸塚恭一(監修),浜田康次,佐藤憲一(編著).抗菌薬サークル図データブック.東京:じほう,2008.を引用改変).M. microsStreptococcus spp.S. constellatusV. parvulaCampylobacterPrevotellaF. nucleatumT. denticolaT. forsythiaP. gingivalisE. corrodensA. actinoActinomyces spp.A. odontolyticusE. nodatumCapnocytophaga図2 Red complexの分布は限局しているが,orange com-plexになると分散しており,これらをすべてカバーする抗菌薬のスペクトラムは,かなり広いものを考えなければならない.

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