歯周抗菌療法 ―感染症医的な視点から―
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91第2章 歯周病菌の抗菌薬感受性ム陰性桿菌に集まっている.つまりサークル図のなかの左上に集中していることになる.そこでこれからはこの部分だけを注目して,バウムクーヘンの1/4だけを相手に議論してみたい(図3). 読者の方はびっくりされるかもしれないが,歯周病菌の各抗菌薬に対するMIC(minimum inhibitory concentration. 最小発育阻止濃度)のデータはほとんど存在しない.もちろん同じPorphyromonas gin-givalis(P.g.)でも菌株によって感受性が異なるので,MICデータは変わってしまう.実験室で使うような確立された菌株と臨床で採取してきた菌株では感受性が異なって当然である.でも,そんなことを理由にMICデータをださないのは単なる怠慢である.同じ理由で髄膜炎や心内膜炎の起因菌のMICデータをだしていなければ,患者さんは助からないのである.まずはスタンダードなデータをだして,それぞれ地域ごと,あるいは病院ごとでMICや耐性率をだして,臨床で使えるように補正するのが筋というものだ.となると,歯周抗菌療法を推進されている先生がたは少なくともスタンダードなMICデータをまずきっちりと公表し,それに基づいてきれいにデザインされた研究結果をできれば地域ごとの臨床株の耐性率とともに公表する責務があるだろう.ここで筆者が嘆いてもしかたがないので,数少ないデータを基に解説を続ける. 表2は2009年に発表されたレビュー論文からのデータである7.このなかでorange complexとして扱われているのはPrevotella intermedia(P.i.)とFusobacterium nucleatum(F.n.)であるため,Campy-lobacter rectus(C.r.)やCapnocytophaga sputigena(C.s.)は含まれていない.原著では推奨される抗菌薬の選択に関する概略的な図ではあるが,これを無理やりサークル図に当てはめていくと図4のようになる.C.r.とC.s.は空白にした.色が付いているところは抗菌薬がうまく効くだろうと思われる細菌である.またオリジナルの抗菌薬サークル図にならい,ブルーは腎臓経由で排泄され,ピンクは肝臓経由で排泄される抗菌薬と考えていただきたい.さて,前章で示した各抗菌薬のスペクトラム概略図と比べると,シプロフロキサシンやメトロニダゾールなどはスペクトラムは似ているが,ドキシサイクリン,ミノサイクリン,アジスロマイシンなどはちょっと様相が違う.しかもアモキシシリンとメトロニダゾールの併用療法を推奨するような誘導性を多少感じるP microsStreptococcus spp.S constellatusV parvulaCampylobacterPrevotellaF nucleatumT denticolaT forsythiaP gingivalisE corrodensA actinoActinomyces spp.A odontolyficusE nodatumCapnocytophagaCampylobacterPrevotellaF. nucleatumT. denticolaT. forsythiaP. gingivalisE. corrodensA. actinoCapnocytophaga図3 前章で解説した歯周病菌は好気性あるいは嫌気性のグラム陰性桿菌なので,サークル図の左上1/4に集中している.表1 プランクトニック細菌とバイオフィルム形成細菌.(文献4より改変して引用)細 菌抗菌剤プラントニック細菌MIC or MBC(μg/ml)バイオフィルム細菌比率(倍)文 献S. aureusVancomycin2(MBC)2010113P. aeruginosaImipenem1(MIC)1,204以上1,024以上114E. coliAmpicillin2(MIC)512256114P. pseudomalleiCeftazidime8(MBC)800100111S. sanguisDoxycycline0.063(MIC)3.1550112歯周病菌にターゲットを絞ったサークル図

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