今後の難症例を解決する総義歯補綴臨床のナビゲーション
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177実際の症例の解説 無歯顎顎堤形態による総義歯の形態分類(上濱の総義歯分類)たので、若い頃からの食いしばりがあったと思われ、顔貌の解剖学的所見から低位咬合と思われた。 下顎は中等度から高度の顎堤吸収を認め、両側にオトガイ孔が露出している。吸収形態に左右差を認めた(図8‐16c)。 図8‐16dに初診時の上顎診断用規格模型を示すが、右側臼歯部は口蓋側への吸収を認める。無圧印象にもかかわらず、左右の頬小帯に緊張があった。有歯顎時からの食いしばりが示唆された。 図8‐16eは初診時の下顎診断用規格模型である。顎堤の吸収状態は中等度で、左側の臼歯部の顎堤は吸収が進行している。 図8‐16fには上下診断用規格模型の対顎関係を示す。対顎関係は悪くはないが、左側臼歯部の顎堤の舌側への幅、高さの吸収を認める。無圧印象にもかかわらず、左右の頬小帯の緊張状態(口腔周囲筋の安静時での緊張)を認めたので、有歯顎時からの強い食いしばりが示唆される。 以上のことから、上顎の支持能力と比較して、下顎の支持能力が低く、上下でアンバランスがあり、さらに強い食いしばりがアンバランスを助長させることで、下顎顎堤の高度の疼痛を生じさせている難症例と判断した。このような症例の疼痛を解消することは著しい困難をともなう。c.旧義歯の診査 旧義歯は、上顎は維持、支持も良好で安定を認めるが、強い食いしばりによる人工歯の咬耗部をレジン添加で補修されていた(図8‐16g)。 また下顎の旧義歯は高さ、幅、長さともに小さく本来のデンチャースペースを満たしていない。維持‐支持‐筋平衡‐咬合平衡との関係が不良であり安定に欠けていた。 人工歯の排列位置も舌房を侵害しており、感覚入力障害を生じている。パット部も被覆されず、不安定な状態である。そのため37番は咬耗を認めず、咀嚼していない状態を示している。 咬耗状態から、下顎の総義歯が不安定なため昼間のクレンチングが示唆された(図8‐16h)。d.診断 以上のことから、下顎の総義歯の不適合、低位咬合(約4mm)をともなう機能障害(咀嚼・嚥下障害、発音障害)、審美障害、昼間の異常なクレンチングと診断した。e.治療方針① 上顎の欠損部位には維持‐支持‐把持の機能を持たせた安定した金属床を製作し、人工歯の排列は可能なかぎり頬側に排列し、下顎の人工歯排列の位置が頬側にくるようにする。② 下顎はデンチャースペースと審美性の回復に基づいた治療用義歯を製作して治療を行い、強い食いしばりの機能圧を維持‐支持‐筋平衡‐咬合平衡図8‐16g 上顎の旧義歯の咬合面観。人工歯の咬耗が著明で、レジンで補修がされている。図8‐16h 下顎の旧義歯の咬合面観。支持能力のない不安定な義歯形態、体積、咬合状態が観察される。

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