別冊 TMDYB2012 アゴの痛みに対処する 
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11別冊the Quintessence 「TMD YEAR BOOK 2012」総論九州大学大学院歯学研究院口腔機能修復学講座インプラント・義歯補綴学分野〒812‐8582 福岡県福岡市東区馬出3‐1‐1古谷野 潔/築山能大/桑鶴利香キーワード:TMD,AADR,Policy Statement,診断,治療はじめに 米国でもっとも権威ある歯科学会である米国歯科研究学会(AADR,American Association for Dental Research)のニューロサイエンスグループが取りまとめたTMDの診断と治療に関する基本声明(Policy Statement)が,2010年3月にAADRのホームページに掲載された4. このPolicy Statementは,この25~30年間に行われた科学的な研究報告によって裏打ちされたエビデンスに基づいた声明であると同時に,患者が適切な医療を受けられることを目指しているという点で極めて価値が高い.また,日本においても,(社)日本補綴歯科学会が本声明を支持する立場を明確に打ち出し,社会に向けての啓発活動が積極的に展開されている. そこで本項では,このAADRの“TMD Policy Statement”を紹介し,その概要について解説する.また,Statement本文に記載されている内容のうちTMDの臨床において重要と考えられるキーワードを抽出し,それぞれについて簡単な解説を加える.今回の基本声明発表に至る経緯 1970年代後半から80年代前半に,顎関節部の画像検査技術の劇的な進歩にともなって顎関節内部の病態が明らかにされ,TMD (temporomandibular disorders)の概念が確立されるに至った.これを受けて,米国頭蓋下顎障害学会(現・米国口腔顔面痛学会:American Academy of Orofacial Pain,AAOP)や米国歯科医師会によるTMDの症型分類が発表され,その後,TMDは上位の疾患概念である口腔顔面痛の一部として捉えられるようになり,米国口腔顔面痛学会による口腔顔面痛の最新ガイドライン改訂第4版(2008年)の発刊に至っている1. これらのガイドライン等においては,一貫して,TMDはう蝕のような歯科の疾患モデルとは異なり,医科の疾患モデルとして診断および治療を行うべきとされてきた.また現在では,1.TMDは臨床症状が類似した病態の異なるいくつかの症型からなる包括的疾患名であること,2.生物精神社会的モデル(biopsychosocial model)の枠のなかで管理される必要があること,3.症状の自然消退が期待できる(self-limiting)疾患であるゆえ,まず可逆的な保存療法を優先させること,AADRのTMD Policy Statement(TMDに関する基本声明)からTMDの基本を読み解く

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