別冊 TMDYB2012 アゴの痛みに対処する 
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175別冊the Quintessence 「TMD YEAR BOOK 2012」1 下顎前方移動装置は起床時の頭痛をもつ患者の疼痛と律動性咀嚼筋活動を減少するはじめに 頭痛,いびきや睡眠時無呼吸のような睡眠呼吸障害(sleep-disordered breathing, SDB),そして,睡眠中の歯ぎしりは臨床的によくみられる健康障害である.頭痛の原因として知られている他の障害との時間的関連の有無により,頭痛は原発性と続発性の2つに分類される1.人口の約7.6%に起床時の頭痛の訴えがある2.文献的には一致をみないが,頭痛の原因にはくいしばり,閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome, OSAS)による低酸素状態,他の呼吸障害が関係するとされている3~5.睡眠中の歯ぎしりをもつ者の40%以上に起床時の頭痛があると報告されている6,7.睡眠中の歯ぎしりは律動性咀嚼筋活動(rhythmic masticatory muscle activity, RMMA)により特徴付けられ,時には歯ぎしり音がある8,9.睡眠中の歯ぎしりと頭痛や口腔顔面痛との有意な関連がみられている6,7,10.起床時の頭痛は正常被験者よりもSDB患者でよくみられ,OSAS患者4人中3人に起床時の頭痛の訴えがあることが複数の研究で示されている5,11~14. 頭痛への対応は薬物療法と非薬物療法に分けられる.薬物療法には,濫用と服薬不履行の2つの問題点がある.頭痛のある1,160名の患者による研究で,71%が服用していなかったり服用を先に延ばしたりしていた15.以前の研究では3年の間に頭痛クリニックに来院した慢性頭痛患者の87%が鎮痛剤を毎週14錠以上服用していた16.頭痛の非薬物療法はおもに行動療法と口腔装置(oral appliance, OA)である.行動療法では,バイオフィードバック,リラクセイション,認知行動療法のようなさまざまな手法を用いる17.OAにはアクリルスプリント,マウスガード,オクルーザルスプリント,下顎前方移動装置(mandibular advancement appliance, MAA)がある18,19.OAは睡眠中の歯ぎしりの一般的な短期的療法でもある20.OA使用により歯ぎしりが減少し,睡眠中の歯ぎしりがある患者の頭痛が軽減することが示されている21.SDBの治療はOAの他に持続的気道陽圧法(continuous positive airway pressure, CPAP)がある.CPAPは今日の治療のゴールドスタンダードとされているが22,23,この10年間の研究で軽度から中等度のOSASにはMAAが有効であることが示されている24~28.SDBが治れば,頭痛は多くの場合消失または有意に軽減する29. 慢性頭痛のある患者での睡眠障害の治療後に頭痛の訴えが軽減することがあることと,MAAがSDBと睡眠中の歯ぎしりに使用できる療法であることから,SDBがなく起床時の頭痛をもつ患者でMAAの薬物療法の代替としての有効性を検討することは有用であると考えられる. 本研究の目的はSDBのない被験者で口腔装置が起床時の頭痛と口腔顔面痛に与える効果を評価することである.材料ならびに方法研究デザイン 今回の対照のあるクロスオーバー研究では,個々の被験者に対してMAAを調整し,検査を行った.ポリグラフィにより計4夜の睡眠および呼吸のデータを採得した(図1).最初の2夜の睡眠検査室でのポリグラフ記録(sleep laboratory polygraphic record-ing, SLPR)は,馴化(N1)とベースライン(N2)とした.続いてMAA非装着で5夜(ピリオド1,P1),MAAをニュートラルポジションで装着して8夜(P2)の後,3夜目のSLPR(N3)を行った.さらにMAA非装着で5夜(P3),MAAを50%前方位置で装着して8夜(P4)の後,4夜目のSLPR(N4)を行った.最後にMAA非装着で5夜(P5)を過ごさせた.起床時の頭痛と顎顔面痛の強さ P1からP5まで被験者に記入させた毎日の問診表中で,100mmの視覚的アナログ尺度(visual analog scale, VAS)により起床時の頭痛と顎顔面痛の強さの自己報告を採得した.ニュートラルと前方位それぞれのMAAの評価に関する質問表をSLPR N3とN4

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