「欠損歯列」の読み方,「欠損補綴」の設計
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section 1 長期経過症例260CHAPTER5 「欠損歯列」「欠損補綴」の視点からの長期経過症例の評価 初診時53歳ですでに16歯になった欠損歯列.50歳代前半の平均喪失歯数は5歯ぐらいだとすると,この症例の喪失歯12は,なにか異常とも思える喪失スピードだろう.初診までのこの喪失スピードの延長として将来を考えると,70歳代には無歯顎になってもおかしくない.つぎに,咬合支持数4歯はすでに実質的な意味で咬合崩壊のレベルに達している.このレベルでは咬合再建ができたとしても長期的には不安をともなう.現存歯数16歯の欠損歯列が保有する咬合支持数のレンジ(幅)は8~2か所で,本症例の4か所は平均的なレベルとみなせる.本症例の最大の特徴は欠損パターンである.筆者も指摘するように上下顎歯数のバランスが悪く,Cummerの分類のパターン6だ.若い歯科医師では上下差(10-2)が8歯という症例に遭遇する頻度はきわめて少ないはずだ.そしてこの差はさらに拡大し,上顎前歯をつぎつぎに失いCummerの分類のパターン8に向かって速い速度で進むことを念頭におくべきだろう.具体的な補綴設計はいろいろな現場の事情で多様になるが,上顎前歯部の喪失スピードを可能な限り遅らせ,上下顎のバランスを改善するのが補綴治療の1つの目標になる.症例の経過をみると,上顎前歯を2歯失ったのが30年という驚異的な臨床成績を示していた.この症例経過から得られることは,ハイリスクの欠損歯列への補綴対応の基本として,咬合平面の安定性を優先することで,喪失スピードを抑制する効果が現れることを,学ぶことができたことだろう.さらに大きな要素は30年以上に及ぶ患医協同態勢だ,患者と術者が一体になってリスクを乗りこえようとした姿が浮き上がってくる.このような示唆に富んだ長期経過こそ,臨床教育の教材となるだろう. 治療終了時から30年間で,喪失歯が4歯ということは,初診時の状況から考えると,歯列弓の保全という観点から力のコントロールをみると,十分だったと思われる.再治療となった原因のところで,上顎前歯2歯の喪失は予測されていたとあるが,が予測外の歯根破折により抜歯となっている.この予測外の結果を検証してみると上顎歯列がオーバーデンチャーで回復されており,下顎歯列への荷重はあまり大きくないと考えてしまうところだが,上下顎の対向関係がⅡ級ぎみで,上顎前歯部の歯槽堤が前方にあり,咬頭嵌合位のときの咬合力にしっかり耐えられるケースは,結構,下顎歯列弓への荷重が強くなることがある.そのときの欠損補綴がロングスパンブリッジになっているときは,対合歯列が総義歯もしくはオーバーデンチャーであっても,支台歯に問題が出る可能性はあると思われる.私自身も,同様な経験をしている.本症例において下顎の支台歯が無髄歯であること,ダウエルコアの長さと太さから推測して,歯冠部歯質の条件はあまりよくないように思える.であれば,下顎欠損歯列に対し,をサベイドクラウンにして,Kennedy3級の両側中間義歯を活用し,残存歯とフレームを一体化と考えたオプションも,を失ったときの再治療の複雑さから,選択肢の1つとして考えられる.本多正明「欠損補綴」の評価宮地建夫「欠損歯列」の評価現存歯数咬合支持数141210864202826242220181614121086420初診時Eichner分類B4術後30年Eichner分類B4初診時 53歳,16歯初診時 4か所現在2か所現在83歳,12歯220246810121416182022242628273237424752576267727782879297100歯数,咬合支持数年齢平均歯数平均咬合支持数図A 宮地の咬合三角による評価.図B 歯の生涯図による評価.

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