削るう蝕 削らないう蝕
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117Chapter 1 う蝕とはどういう疾患かにしたエビデンスは少なく、またリスクについても系統立てて教育しているところも少ないのが現状ですから。伊藤 とすると、すべて教育に任せるのではなく、臨床現場に出てきた人が、目の前の疾患から学んでいかなければならないんでしょうね。例えば1つの初期病変をずっと診ていくことで、修復しなくても大丈夫だったとか、修復しなければいけなかったとか――こういった経験をすることで、多くのことを学ぶことができると思うんです。 経験を客観的に積み重ねることで、これまで削る症例と一義的に割り振っていたもののなかにも、もしかしたら削らなくてもすむものが見つかるかもしれない。こういったものは、それぞれの人が自分で診て習得していかなければ、身につかないのではないでしょうか。今里 私もそれは正しいと思います。林先生がおっしゃったように、はざかいの部分、つまり介入するかしないかの部分の臨床研究はほとんどありません。「エビデンスが出てくるのを待って、それから削る・削らないを考えましょう」という姿勢で待っていたら、いったい何年先になることやら。臨床研究は絶対に必要なんですが、現実的には臨床現場から『実感』として習得していくことは必要なんでしょうね。伊藤 臨床のおもしろさって、『自分の行った行為がこういう結果になった』ということを評価することにあると思うんです。つまり時間軸で判断することの醍醐味です。これは大学でも一般の開業医でも皆がしなければならないことですし、実はいちばん欠けているところでもあります。この発想が欠けているから『見えない』のではないでしょうか。症例1-1-1d メインテナンス来院時(初診来院時から5年8か月後)の口腔内写真。52歳。2か月ごとのメインテナンスでなんとか崩壊への流れを食い止めている状態である。この後、メインテナンス来院が途絶えた。

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