削るう蝕 削らないう蝕
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943Chapter 3 う蝕の診査・診断と介入・非介入の判断初期病変をどう診るか -時間軸による臨床判断-今里 聡・林 美加子・伊藤 中今里 症例3-1-1は、「リスクをコントロールしてマネジメントする」という意思を前面に強く打ち出している歯科医院ならでは、という感じがします。例えば7歳時の6は、他の歯科医院であればインレー修復を受けてもおかしくない状態だと思います。私の推測ですが、きっと10人中8、9人の歯科医師はそう判断するのではないでしょうか。しかし伊藤歯科クリニックでは、うまく初期病変をコントロールしていますね。 これまでは『う蝕=削るもの』という図式が一般的でしたが、実際は『削らなくてもいいう蝕がある』ということを認識させる症例だと思います。伊藤 「色がついたら進行する、だから削らなければいけない」といった昔からの因習はまだまだ残っていますからね。う蝕治療は不可逆的なものですし、修復物・修復材料も永久不変のものではないと思いますので、私は早い段階で切削を伴うような修復を行うことは危険だと考えています。 適切なリスクコントロールとマネジメントによる再石灰化の促進が行われていれば、たとえハイリスク者であっても、初期う蝕病変の進行を抑制できる可能性があります。ですから私は、『いつ介入するのか、どのような介入になるのか』の判断は、時間をかけて慎重に行うべきだと考え、実践しています。林 たしかに、『進行するう蝕』と『進行しないう蝕』の見極めは、断面的な判断では到底できません。適切な判断をするためには、伊藤先生のように時間をかけて診ることが必須でしょう。 ただ残念ながら、そういった認識を持っている歯科医師がまだまだ少ないのが現状です。今里 そもそも『削らなくてもいいう蝕と、削らなければならないう蝕がある』ということすら理解が進んでいませんからね。まだまだその場で『削るや否や』と考えてしまう傾向にあると思います。伊藤 初期病変を時間をかけて判断するうえで大切なことが2つあると思います。 1つはリスクコントロールです。『脱灰と再石灰化のバランスを修正する』ことが『削らなくてもすむようにしていく』ことを担保していますので、リスクは常に追っていかなければなりません。 もう1つは、非破壊的にチェックする術を持つことです。今里 たしかにそのとおりで、とくに非破壊的なチェックは重要です。脱灰病変に鋭利な探針を突っ込んで進行状況を確認するという旧来の手法が、現実問題として少なからず残っているのは残念でなりません。Chapter 3-1 鼎談

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