さわる咬合, さわらない咬合
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第1章 咬合──顎口腔系への影響009図3 顆頭の線維軟骨の被覆部に相対した解剖学的構造からも,顆頭は関節窩内で前上方に位置するという見解は妥当性がある.AS:関節隆起関節面.AD:関節円板中央狭窄部.PB:関節円板後方肥厚部.SRL:関節円板後部組織上層.IRL:関節円板後部組織下層.SLP:外側翼突筋上層.ILP:外側翼突筋下層.FC:線維軟骨.*参考文献9より作図表1 疫学的調査の結果を参考にすると,成人で30%前後の人にクリッキングが認められている.3人に1人は円板が定位置にないと考えられる.文献年齢(歳)クリック(%)Bernal, et al, 19863~55Nilner, et al, 19817~148Nilner, et al, 198115~1814Solberg, et al, 197918~2328de Laat, et al, 198522~2830Relder, et al, 198340~4950Osterberg, et al, 19797037Morris, et al, 19928320 咬合治療や修復治療の理想の咬合関係は,生理的に顆頭が安定しているときに,上下顎歯が最大に咬頭嵌合することである.では,必ずCR・生理的顆頭安定位=ICPでなければ,病的な問題が起きるのであろうか? 結論からいえば“No”である.それでは,CRはどうでもよいのかといえば,それも“No”である.CRの定義を考えてみよう CRの定義は長く変遷を続けてきた.そのなかでも解剖学的見地から(図3),1987年の米国補綴用語集5版の「左右の顆頭がそれぞれ左右の関節窩内の前上方で,関節結節の傾斜部と対向し,かつ関節円板のもっとも薄い部分と嵌合している上下顎の位置関係」が臨床の指標として妥当と筆者らは考えている.CRの定義は,顎関節構造が解剖学的に正常な配置であることを前提としている.しかし,18~50歳で28~50%の人に関節円板の転位があるという報告(表1)がある1,2ように,関節円板の位置が正常ではなく,クリッキングがあり,CRの定義にあてはまらない患者も少なくない.その28%~50%の皆が,治療を要するようなTMDの不快症状を訴えるわけではない.TMDを訴えるのは,ほんの数%であろうと思われる.厳密に解剖学的に正常な状態ではなくとも(関節頭に対して関節円板が介在していない状態),生体には許容し適応できる範囲(生理的顆頭安定位)がある.そのため,筆者らは「中心位(CR)・生理的顆頭安定位」と併記して用いている.生理的に顆頭が安定した位置は,左右咀嚼筋が生理的に機能して導く位置(再現性のある位置)でもある. ここで,話を戻してみよう.咬合・修復治療の理想的な下顎位は「中心位(CR)・生理的顆頭安定位のときにICP」である.あくまで理想の位置ではある.すべての治療にこの理想を当てはめて治療を行うとは限らず,「CR・生理的顆頭安定位≒ICP」でも生体は適応できる.しかし,この「≒」とは,どの程度であろうか? どこまでを許容範囲とするのか? というように,“だいたい”という言葉では目安がない.やはり,目標とする基準が必要である.それが指標である.その指標は「CR・生理的顆頭安定位=ICP」である(図1).では,つぎに,生体の許容範囲について考えてみよう1-2顎口腔系の生理的観点からみたCRの定義と意義中心位ADASPBFCIRLSRLILPSLP

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