口腔外科ハンドマニュアル'13
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DENTAL SURGERY UP-TO DATEChapter1-270 近年,歯科用インプラントの爆発的な普及により従来より懸念されていたコンプリケーションが急増している.2011年の報道により死亡例まで出たことがわかり,にわかにインプラントによるコンプリケーションが注目を集めるようになった.日本顎顔面インプラント学会が2009~2011年の3年間のコンプリケーションについてアンケート集計した報告1によると,神経損傷が約37.6%であった.内訳は下歯槽神経損傷27.8%,オトガイ神経損傷8.6%,舌神経損傷0.5%で,これらを合わせた下顎神経損傷としてみると36.9%にのぼる.また,眼窩下神経損傷もわずかではあるが0.7%存在した.なかでも下歯槽神経損傷が突出していることは注目に値する(図1). Mischら2の報告によると70%以上の歯科医師が歯科治療後に知覚異常を経験していると述べている.なかでも下顎神経についてインプラント埋入や骨採取の際に損傷することが多い.また,全下歯槽神経損傷のうち,インプラント埋入に起因したものがRentonら3は18%,Tayら4は14.9%,Hillerupら5は10%と,いずれも10~20%程度がインプラントに起因した下歯槽神経損傷であったと報告している. 東京歯科大学千葉病院急性期神経機能修復外来では,2011年6月より2012年5月までの1年間に44名が神経損傷を主訴に受診している.下歯槽神経損傷は40例(90.9%),舌神経損傷は4例(9.1%)であった.原因別では下顎智歯抜歯によるものが22例(44%),次いで下顎骨骨髄炎(インプラント埋入にともなうものを含む)が8例(16%)で,そのなかでもインプラント埋入例が6例(12%)であり,海外の報告と同様の傾向であった(図2). 本稿ではとくにインプラントによる下歯槽神経損傷について,①神経損傷のメカニズムを知るための基礎(変性と再生),②感染に関連した損傷,③出血に関連した損傷,④機械的な損傷に分けて論じることとする. 神経損傷を治療するうえでもっとも重要なことは,①早期治療開始(golden timeは48時間であり,少なくとも1か月以内が望ましい),②正確な診断(客観的および主観的検査による総合的診断),③神経断裂があればマイクロサージェリーによる神経縫合,神経移植術に習熟していることである. ②の客観的検査はとくに重要で,主観的検査だけ特集2:インプラントによる神経損傷をあらためて考える巻頭アトラス 最新の外科潮流を知ろう佐々木研一東京歯科大学口腔外科学講座佐々木歯科・口腔顎顔面ケアクリニック連絡先:〒294‐0048 千葉県館山市下真倉626‐1Complication of Dental Implant − Management of Inferior Alveolar Nerve Disturbance −Kenichi SasakiDepartment of Oral and Maxillofacial Surgery, Tokyo Dental CollegeSasaki Dentistry / Oral and Maxillofacial Care Clinicaddress:626-1, Shimosanagura, Tateyama-shi, Chiba, 294-0048インプラントコンプリケーション神経損傷への対応(メカニズム・感染・出血・機械的損傷)

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