乳歯列期における外傷歯の診断と治療
1/8

006Ⅰ乳歯外傷の疫学①Ⅰ‐1年次的推移からみた特徴 小児期は心身ともに成長発育段階にあり,身体的・精神的・社会的にも未成熟のため予期せぬ状況下では成人と比較して,口腔・顔面の外傷を受ける機会が多いといわれている.小児歯科臨床においても,歯の外傷に遭遇する機会が少なくないが,対象患者の年齢が低いなど,対応のむずかしさや成人とは違った問題があり,その扱いは容易ではない1).すなわち,乳歯の外傷においては,後継永久歯の発育への影響を考慮する点で永久歯外傷とは異なる.永久歯胚には外傷の程度やパターン,受傷年齢などにより種々の影響が起こる.近年,小児の運動能力の低下からか,歯の外傷も増加傾向にあり2,3),また,乳歯の外傷は突発的に起こるため,日頃から診断と処置法に関するシミュレーションをしておくことが大切である. そこで筆者は,平成15年4月1日から平成25年3月31日までの10年間,福岡歯科大学医科歯科総合病院小児歯科外来に受診した歯の外傷者(男子734名,女子408名,計1142名)を対象に調査を行った.(1)外傷者の年次的推移と男女差 平成15年から平成24年までの10年間の外傷をみると,乳歯,永久歯の歯の外傷は増加傾向にあり,10年間でほぼ3倍になっている(図①).性別でみると,男女比は約1:2といわれており1),本調査でも同様な結果であった(図②).(2)好発年齢 平成8年に行われた全国調査1)では,乳歯外傷の年齢は1~3歳までがとくに多く,3歳までに約65%が集中している.しかし,本学における平成15年度と平成24年度の調査結果を比較すると,平成15年では従来と同様な結果であったが,平成24年のデータでは4~6歳に外傷者のピークがみられ,年齢層に変化が起こっていた(図③).文部科学省によると,子どもの体力・運動能力は昭和60年頃をピークに低下し,平成13年以降は横ばい状態である.原因の一つが外遊びの減少など運動時間の不足だと述べているが,小児における外傷歯の推移と関係があるのかもしれない.(3)好発部位 乳歯の外傷は上顎乳中切歯部がもっとも多く,全体の約70%を占めている.続いて上顎乳側切歯の13%,下顎乳中切歯が12%であった(図④).(4)受傷様式 乳歯外傷の特徴としては,脱臼や転位を起こすものが多い1).本学の平成21年から24年の本調査結果でも,脱臼が41%ともっとも多く,次に震盪の33%が続いており,歯冠破折や歯根破折は少なかった(図⑤).

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です