別冊 YEAR BOOK 2014
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Part 1 世界の歯内療法の最新トピックは?はじめに 根管治療を施した根完成永久歯の長期生存率の高さ(93%以上)とひきかえ,歯髄壊死あるいは根尖性歯周炎を発症した根未完成永久歯の根管治療は困難である.これは,根の形成が不完全であり,歯根象牙質壁が菲薄で歯根長が短いことが一因である.従前より,根尖性歯周炎を発症した根未完成歯に対してはアペキシフィケーションが行われてきたが,根の脆弱さから,予後不良のケースがしばしば見受けられる.最近の研究では,エックス線写真上で観察される継続的な歯根の成長,根尖性歯周炎の治癒,ならびに歯の生存率の向上を目的とし,歯髄様組織の再生をめざす組織工学的な取り組みが行われている. 本講演では,歯髄再生療法の生物学的基礎を解説するとともに,このダイナミックな分野における現在進行中の研究について述べ,今後の展望を示す.歯髄再生療法の生物学的基礎 根が完全に完成している永久歯に対する根管治療の臨床成績はきわめて良好であり,非外科的歯内療法後の歯の生存率は,大規模母集団を対象とした研究(患者数100万人以上)でも,93~97%と非常に高い1,2.一方,歯髄壊死あるいは根尖性歯周炎に罹患した根未完成永久歯の治療は困難をともなう.根管系の徹底した清掃がしばしば難しいばかりでなく,根管壁が菲薄なため,通常の根管形成を試みると以降に歯が破折する危険性が増してしまう.歴史的には,水酸化カルシウムを長期に適用するアペキシフィケーションにより,満足すべき臨床成績が得られている.しかしながら,長期間に及ぶ水酸化カルシウム療法が象牙質の機械的性質を劣化させることが危惧されている.実際,長期間の水酸化カルシウム療法後の歯の破折率は25%近いと報告されている3.他の方策としては,Mineral Trioxide Aggregate(以下,MTAと略)を用いて人工的なバリアを1回法で根尖部に形成し,緊密な根管充填と歯冠修復を行う術式がある.MTAは,このような状況下で良好な封鎖性を示す4,5.また,接着性コンポジットレジンが破折に対する抵抗性を向上させるとの報告が複数存在するが6,7,すべてではない8.1歯髄の損傷と変わりゆく治療法Pulp Injury and Changing Trends in TreatmantKenneth M HargreavesDepartment of Endodontics,University of Texas Health Science Center at San Antonio翻訳)和達礼子/須田英明(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯髄生物学分野)14

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