インプラント治療の根拠とその実践
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1. エビデンスベーストメディシン(EBM)を臨床に1)EBMの正しいとらえ方「医療」には不確実なことが多々あるものだが、その解決法の1つとして、エビデンスベーストメディシン(EBM)が発展してきた。EBMとは、①患者の好みや希望をよく聞くこと、②術者の能力と経験、そして③現代の科学的な研究に照らし合わせて臨床判断を行うもので1あり、術者が自分に都合のよい治療を決定するものではない(図1)。このことはアリストテレスの時代から言われ続けてきたにもかかわらず2、どの時代にも優れた医師が正しく治療すれば、どんな患者でも、疾患が治癒すると誤解されがちであった。しかしながら1990年代から患者の考えを十分尊重したうえで、可及的に適した方法を、患者とともに選択すべきであるという方向性の医療が推奨されてきている。だが現実には、EBMの3つの重要因子中の「患者」が欠落しがちな医療がまだ行われているのも事実であるし、いまだ医師がすべてを決定するタイプの臨床も残っている。ロバート・レフラーはその著書『医療のルネッサンス』の中で、このようなもはや患者の意に沿わない傾向の医療を、痛烈に批判している。2)疾患の診断と治療に関する判断は別のもの実際筆者が学んだイェテボリ大学の診断学教室の考え方2やBeauchampらが唱える倫理観(生命医学倫理)に基づく臨床の実践では、エビデンスよりも患者よりの臨床判断が優先されることがある。それは患者の希望や好みを重視したうえで、思慮深い臨床判断をするための方法論と受け止められている。たとえば、来院患者が絶対に抜歯したくなさそうなときには、簡単に「抜歯ですね」と言うべきではない。方法論として患者が「抜歯すべき歯であること」を十分理解するまで待ってから「抜歯する」。また他院で「抜歯しかない」と言われ、セカンドオピニオンで来院し同じ結論であった場合も同様である。まずは患者に「抜歯する気に」なってもらわねばならない。診断が正しくても、患者が「抜歯」という治療方針を必ず受け入れてくれるとは限らないからである。このように疾患の診断と治療に関する判断は、「ヒト」がかかわる以上、同じ判断となるわけではない。それは術者や患者の因子がかかわるからであり、EBMでは思慮深い臨床判断が必要なゆえんである。本項では、まずは診断学的見地からの考え方を述べ、特に歯内療法およびその他の専門的見地から「保存か、抜歯か」についての考え方を見ていくこととしたい。診断学に基づく ディシジョンメイキングの考え方 宮下 裕志 Hiroshi Miyashita宮下歯科・東京都図1 EBMとはエビデンスのみに基づく臨床ではない。他に2つの重要な因子がある。A-1 歯内療法専門医が考える保存と抜歯の基準①医療面接思慮深い臨床判断患者希望・好み術者能力・経験質の高いエビデンス3

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