インプラント治療の根拠とその実践
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治療計画立案のための エビデンス(根拠) A「治療計画の立案」は、術者の歯科医師としての診断力を問われる、きわめて大切な治療のファーストステップである。それは歯科医療に関する知識・技術・経験に基づき、「患者に利益をもたらす治療」を歯科医師が立案する行為であり、患者にとっては、自分が享受できる利益を検討するためのなくてはならない資料となる。治療を受けるか否かを決定する権利をもつのは、あくまでも患者だからである。一方、治療を提供する歯科医師にとって、「臨床経験に基づく根拠」は、治療計画立案における個人的、かつ重要な「糧」とも言えるものである。ただし、治療内容の正当性を客観的に問われた場合、現代のEvidence Based Medicine(以下EBM)を妥当とする医療現場においては、治療計画立案のための根拠(エビデンス)が不可欠であろう。エビデンスとは、「臨床研究に基づく、実証の報告」を意味している。現在のEBMとは、報告内容を以下の5段階にランク付けし、それを根拠に治療を進めようとするものである。以下に、エビデンスの信頼度1~5の内容を示す1-3。信頼度1の信頼性は「きわめて高く」、信頼度2は信頼性が「高い」と解釈する。したがって、患者に対して強く勧められる治療法と言える。信頼度3、4、5の報告や意見についても参考資料として検討すべき余地はあり、診断や治療計画にとり入れることができる。本項では、欠損補綴症例の治療に際して、従来の補綴法(ブリッジ、部分床義歯、全部床義歯など)とインプラント治療のいずれかを選択する際の判定要素13項目(表1)と、各項目に関係する臨床的判断基準のエビデンスを提示し、治療計画立案の拠り所の資としていただくこととした。岩田 健男 Takeo Iwataデンタルヘルスアソシエート・東京都表1 13項目の臨床的判定要素治療計画立案に際し、日常臨床で従来補綴か、インプラント治療かの選択にあたり、比較的よく遭遇する13項目の臨床的判定要素を列挙した。❶全身的状態❷歯周病の既往❸従来補綴特有の課題1:う蝕の既往(う蝕活動性)❹従来補綴特有の課題2:歯内治療の予後❺従来補綴特有の課題3:ポストコアのリスク❻インプラント治療特有の課題❼3本ブリッジ(従来補綴)とシングルトゥースインプラントの予後❽インプラントブリッジ(ボーンアンカードブリッジ)の予後❾審美性の重要度と可能性●10治療費用●11治療期間●12修理の容易さ●13予測余命補足:インフォームドコンセント(説明と同意)信頼度1:もっとも信頼される大規模な臨床試験結果(systematic review of randomized controlled trials)信頼度2:小規模な臨床試験結果(systematic review of cohort studies)信頼度3:他の医学研究と報告(systematic review of case-controlled studies)信頼度4: いわゆる権威者や団体の意見(case series, poor cohort case-controlled studies)信頼度5:単なる専門家の個人的意見(expert opinion)62

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