インプラント周囲炎の科学と臨床
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予防的観点からみたインプラント周囲炎49に遭遇することがある(図1‐a、b)。 インプラント周囲炎の主要因はあくまでもバイオフィルムを主とした細菌感染であるが、その他にリスク因子が存在し炎症の進行を増悪させていることも事実である。天然歯における歯周病が細菌感染を主とする多因子疾患であると同様に、インプラント周囲炎も細菌感染を主とする多因子疾患であることは間違いない。しかしながら、そこにはインプラントの表面性状や接合様式、接合部の形態など、インプラント周囲炎特有のリスク因子が存在する。これらの因子を踏まえ予防的観点から早期にインプラント周囲炎を察知し、炎症の進行を抑制することが非常に重要である。 Schwarzら1)によってまとめられたインプラント周囲炎に関するリスク因子を表1に示す。以下、しばしば遭遇するリスク因子とその改善策について考察しながら述べてみたい。プラークコントロールとバイオフィルムの除去 先に述べたように、インプラント周囲炎の主要因はバイオフィルムであることから、プラークコントロールはインプラントを維持するための主要な項目である。 清掃不良がインプラント周囲炎に影響を与えることがSerinoら2)によって報告されている。プラークコントロールは天然歯を含め全顎的に適切に行われなければならないが、インプラント部位において補綴物とアバットメント(以下AB)の接合関係やそれぞれの傾斜、豊隆がプラークコントロールを困難にさせていることも珍しくない。したがって、これらの問題点については最終補綴物装着前に十分に検討されなければならない。 インプラント周囲に炎症が認められた場合、可能であればABを含め上部構造をいったん除去することが望ましい。上部構造を外すことによりバイオフィルムや食渣の除去が容易になる。また、補綴物やABの表面の汚染物の除去が可能となり、インプラントのプラットホーム周囲の嫌気的環境を改善することもできる。 上部構造ならびにABの除去直後に多量のプラークの沈着が認められた場合は炎症消退後、上部構造を再装着し一定期間後にてABの除去を行い表面のプラークの沈着の有無を確認する必要がある。徹底したプラークコントロール指示にもかかわらずプラークの蓄積が認められる場合には、清掃を容易にするための補綴形態の修正や補綴様式の変更を行う。 一方で、プロフェッショナルケアとしてインプラント表面のバイオフィルムの除去を適切に行うことも重要である。表面の汚染が軽微な場合、EMSや超音波スケーラーによる洗浄、手用器具やブラシによる清掃が有効である。多くの場合、粗造なサーフェスに強固に沈着した汚染物質の除去は困難である3、4)。このため、これらの除去にはTiバーなどの回転切削器具による表面の除染やβ-TCPによる清掃、レーザーによる除染が行われる。図1‐a図1‐b主要因二次的要因・プラーク・バイオフィルム・ペリオリスク(歯周病の既往、初期、中等度、重度)・全身疾患(糖尿病など)・飲酒(19g/日 以上の飲酒)・遺伝的要因・インプラント表面性状・咬合過剰負担・周囲粘膜(角化粘膜の幅)・上部構造・埋入時の骨の状況(裂開、開窓、埋入ポジション)・骨造成・BP製剤・非プラーク性歯肉病変図1‐a インプラント周囲に重度の骨吸収をきたした症例。撤去が適応と判断した。図1‐b インプラント周囲を取り囲むような骨吸収像。咬合性因子の関与の疑いが強い。連結を切り離すとフィクスチャーは脱落した。表1 インプラント周囲炎の原因因子

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