インプラント周囲炎の科学と臨床
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インプラント周囲炎の細菌学的考察55ンプラント数では12.0%)でインプラント周囲炎が認められており(図3)、日本における発症率も諸外国とほぼ同様であると推測される。 インプラント周囲炎は歯周炎同様、炎症反応に引き続きポケットの深化、骨破壊が起こる。その原因は確定していないが、インプラント周囲の細菌因子、宿主因子、そして環境因子が関与していると考えられている2)。インプラント周囲の細菌叢 インプラント周囲炎部の細菌叢から歯周病原細菌が検出されることについては、これまで多くの報告がなされている。Mombelliら3)は、歯周病の既往歴を持つインプラント周囲炎罹患者を対象に培養法による細菌検査を行ったところ、歯周病原細菌が検出されたと報告している。またHultinら4)は、インプラント周囲炎部では健常インプラント部と比較して、歯周病原細菌の中でも特にRed complex (Porphyromonas gingivalis、Tannerella forsythia、Treponema denticola)と侵襲性歯周炎に関連するAggregatibacter actinomycetemcomitansの検出率が高いと報告している。さらにShibliら5)の報告では、Red complexだけでなくOrange complexに属する細菌も高い検出率を示している。細菌の遺伝子型を調べた研究6)から、インプラントと天然歯で認められる歯周病原細菌の由来は同じであり、天然歯からインプラントへ細菌が伝播している可能性が高いことが示唆されている。歯周炎の既往があるものであれば、無歯顎者であってもインプラントへの歯周病原細菌感染のリスクは残る。歯周病原細菌の多くはグラム陰性偏性嫌気性菌であり、天然歯を喪失した時点で口腔内からその細菌数は激減することが予想されるが、一方でP. gingivalis、T. forsythia、A. actinomycetemcomitansなどは宿主の細胞内に侵入して免疫機能を逃れ、口腔内にとどまり続ける可能性が示されている7)。 インプラント周囲炎部の細菌叢には歯周病では通常認められない細菌が検出されるという報告もある。Leon-hardtら8)は、インプラント周囲炎の60%から歯周病原細菌が検出される一方で、ブドウ球菌や腸内細菌、酵母といった菌も55%の部位から検出されたと報告している。また、Staphylococcus aureusはそれ自身の病原性は低い図1 東京医科歯科大学歯学部附属病院インプラント外来への転院患者の推移。年々増加していることがわかる。図2 東京医科歯科大学歯学部附属病院インプラント外来への転院患者(2010年)の主訴。実際に何らかのトラブルを抱えている人は70%以上にのぼり、特に生物学的トラブルは全体の30%以上に及ぶ。図3 東京医科歯科大学歯学部附属病院インプラント外来でのインプラント周囲炎発症率(2012年)。平均機能期間9.1年、上部構造装着5~15年。インプラント周囲炎は患者レベルで17.6%、インプラントレベルで12.0%認められた。部位別ではプラークコントロールの難しい下顎臼歯部(13.3%)や上顎臼歯部(10.8%)に認められた。88名1,301名2005年1800160014001200100080060040020002006年2007年2008年2009年2010年1,420名1,589名1,606名1,736名1,800名127名198名204名237名250名新患数他院治療患者数周囲炎(+)前歯部上顎下顎前歯部5.1%10.8%3.4%13.3%臼歯部臼歯部20%18%16%14%12%10%8%6%4%2%0%周囲炎(-)他部位希望6%その他3%不定愁訴8%補綴トラブル20%外科トラブル22%生物学的トラブル31%メインテナンス希望10%

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