インプラント周囲炎の科学と臨床
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細菌学的・免疫学的診断に基づく、インプラント周囲炎に対するErbium Laserを用いた再生治療法71適切な歯周治療が行われていれば、歯周炎の既往に関係なく、インプラントが良好な経過をたどる報告も多数存在する4~6)。そして、インプラント周囲炎からは多数の歯周病原細菌が検出されているという報告がほとんどである7)。すなわち、発症したインプラント周囲炎の患者が来院した場合、先行して原因除去療法である歯周基本治療をやり直すことが必要であり、天然歯と同様に保存が不可能な場合はインプラントを撤去することも必要である。 インプラントと天然歯の汚染の決定的な違いは、自然治癒力がインプラントにはまったくないこと、インプラントの形態と表面性状が複雑で感染と汚染の除去が容易でないこと、そして天然歯のSRPのような簡便にデブライドメントする術式が得られないことである。インプラント周囲炎に対する細菌検査と歯周病原細菌に対する免疫検査の意義と目的は、天然歯より組織破壊の進行が強いインプラント周囲炎の感染の度合いを診断すること、また表面性状の違いによって感染の違いがあるかを知ること、そして将来のインプラント周囲炎の治療の術式の診断基準の一助になる可能性があることである。対症療法と原因除去療法 歯周治療においては、原因除去療を考察すると、古くは歯石除去(古代から1900年代まで)、そして細菌の発見と顕微鏡の発展によりプラーク除去、すなわち非特異的感染に対する治療(1925年代まで)、から嫌気性細菌の発見と培養法の確立、および抗菌療法による特異的感染治療の黎明期(1950年代)、そして免疫系とのかかわりを考慮したHost-Parasite interaction(1970年代~)を経て現在に至っている。現在の歯周治療も、まずプラークコントロールを行い(総菌数の減少)、歯肉縁上と縁下歯石の除去(部位特異的細菌塊、すなわち好気性菌と嫌気性菌の除去)、必要に応じて行われる抗菌療法(細菌叢、つまり菌種のコントロール)といった手順はその歯周治療の歴史的経緯・発展と同じように行われる。そして、環境整備として、歯周ポケットの除去、その後の付着歯肉の増大・あるいは付着器官の再生などといった、切除療法や再生療法が行われる。これが、感染症である歯周治療の原因除去療法である(図1~5)。 インプラント周囲炎もこの手順を踏むべきであるが、問題が2つある。一つは、複雑な形態(スレッドなどを有するマクロ形態)、そして2つ目は骨結合を強める、あるいは早めるための表面処理(マイクロテクスチャー)の問題である。この2つの問題により、天然歯では容易なSRPが行えないこと、そしてこれも天然歯では容易な切除療法が行えない(チタンの切削が困難であり、かりに可能であったとしてもLPSなどの生体で分解できない内毒素と感染塊である歯石などの非吸収性の切削片をオペ時に大量に飛散させてしまうこと、かつ審美的に金属がオペ後に露出してしまうこと)ため、インプラント周囲炎の治療はこれまで難儀していたのである。 これらを同時に解決する方法が、Er:YAGまたはEr,Cr:YSGGという、水分子に吸収されその水の微小爆発により、非熱でチタンを変性させずに、しかも滅菌とLPSなどをデトックスさせながらデブライドメントできる“レーザーデブライドメント”なのである。Erbium Laserによる、チタン表面のデブライドメントのエビデンスと有効性8~14)は、本学会誌にて著者が一昨年執筆済みであるので詳細は割愛するが、次々と臨床報告とそのエビデンスが報告されつつあり、ますますその有効性が示唆され始めている。図1 インプラント周囲炎も、歯周炎も歯肉縁下歯石の付着、肉芽組織の存在などインプラントと歯の違いこそあれ、同様の状態を呈する。Subgingival calculusGranulation tissueImplantNatural tooth

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