人はなぜ歯周病になってしまうのか?
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20まったく同じDNAをもっているとは言えないのだが……細部にこだわることになるので無視する.ということは宿主の細胞は全部ひっくるめて宿主の同じ利己的遺伝子が乗っかっている乗り物だと解釈できる. 細菌はこの宿主の遺伝子とはまったく異なる遺伝子を乗せている乗り物である.歯周病菌と名付けられた細菌は10種類ほどいるものの,それらを個々に議論するのは細部にこだわることになるのでやはり無視.全部ひっくるめて細菌の利己的遺伝子の乗り物と解釈しよう. これで役者が出そろった.宿主の利己的遺伝子とその乗り物.そして歯周病菌の利己的遺伝子とその乗り物の2種類ということになる(図5).種類は少ないが数は膨大で,その表現型も多彩である.歯周病菌の利己的遺伝子 歯周病菌は原核細胞生物に属する.DNAは細胞質に裸で浮かんでおり,しかも2本の輪ゴムが絡まったようなリング状のDNAとなっている.この原核細胞生物は分裂して増えていく(図6).つまり無性生殖で子孫を増やしていく.しかも基本的に寿命がない.ということは,細菌のような原核細胞生物の基本的な生存戦略は,とにかく同じ子孫をたくさん増やして生き延びることである.たまに何かにやられたとしても,1匹でも生き残れば分裂しながら元の状態まで回復可能である. 歯周病菌の本来の棲み家はどこになるのか結論は出ていないが,ポケット内では元気ハツラツなので,仮にポケット内をホームだと考えてみよう.歯周病菌は唾液で伝播する可能性が高いと考えられているので,多くはポケット内に棲みながらときどき唾液中にも出ていき,唾液中の仲間がときどき他の宿主(同じ宿主の別のポケットのこともあれば,他の人間ということもある)に乗り移っていくのであろう(図7).もちろん唾液から歯肉溝内への侵入という逆ルートもなければそもそもポケット内に棲み着けない.当たり前. 歯周病菌はポケット内で酵素や内毒素のような物質を出すことにより歯周組織は炎症を起こしだす.そもそも炎症は歯周病菌を排除するために起動するものであるが,炎症にともない歯肉溝滲出液中のタンパク質やヘミンなどの食糧が増えるという願ったりかなったり状態になる.ポケットが深くなればなるほどこれらの傾向は強くなるし,嫌気的環境になるので,酸素の苦手な歯周病菌にはありがたいことである. 歯周病菌はポケット内でも深いところが好みだが,深いところほど唾液中には出ていきにくくなる.爆図8 P.g菌はポケット上皮細胞に侵入することがわかっている.宿主はターンオーバーによる剥離作戦を実施しているが,これに便乗してポケットから脱出しているのかも(私見).図7 おそらくは唾液を介して口腔内の他のポケットや他人のポケット内に乗り移っていくものと想像されている.▶ポケット脱出作戦▶歯周病菌の伝播戦略根面上皮細胞唾液

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